4位 三体 Ⅲ 死神永生(小説)
5位 アクティベイター(小説)
先にあったことは、また後にもある。先になされた事は、また後にもなされる。日の下には新しいものはない。「見よ、これは新しいものだ」と言われるものがあるだろうか。それはわれわれの前にあった世々に、すでにあったものである。伝道者の書 第1章9−10節
斬首ということは無機物を機械的に斬るのではなく、人間が人間を斬るのであるから、斬る人間と斬られる人間とのあいだに一つ一つの場合でそれぞれ異なった心理的触れ合いが生じるのである。したがってつねに偶発性をともなって斬り手の心理なり感覚を揺り動かす事件が絶えない。それにたいする抵抗素がいくらできていたとしても、その衝撃はいつまでも尾を曳いて残るものであり、そもそもが人間としての反自然的行為なのであるから疲労となって神経を昂ぶらせる。とくに多量の血を見ることは本能の最も奥深いところにあるものを刺戟するらしく、生臭い血の匂いに触発されて、斬り手の全身を酩酊させる。それを〈血に酔う〉と言っている。
本文 p181
https://note.com/tomomishimizu/n/nfd4c33d0fcdf
子供の殺害、拘束監禁、強制不妊手術、親族を人質にした恫喝、など、非人道的で苛烈な人権侵害の内容は衝撃的で、初読の人には強いトラウマになるだろう。だが、これは紛れもなく起きている現実であり、インターネット上では告発の動画や証拠が溢れ、2021年1月にはアメリカ政府が公式にジェノサイド(集団虐殺)が起きていると認定した。現在も進行している恐ろしい現実について知ることは、同時代を生きる人間の生存戦略上、不可欠であろう。
だけど、それだけでは足りない。
本書は印刷物であり、1200円で買える。大部分が漫画で描かれ、あとがきを含め40ページ程度なので、簡単に読むことができ、その訴求性は大きい。児童書のコーナーに置かれた小冊子のようなサイズ感であり、20分もあれば内容に目を通せる。だが、この小さな絵本は、大きな力を持つ。
一人でも多くの人がこの本を手に取り、このような非道は許さない、と態度を表明することが中国共産党を牽制し、世界を変えていくだろう。逆に、黙認する人が多ければ、日本人とて他人事ではなく、20年後や30年後に同様の目に遭う可能性が現実にある。苦しむウイグルの人々を救うために、未来の自分や自分の家族を守るために、一人一人が、声を上げる必要がある。その第一歩として、今、絶対に読むべき本である。
舞台は11世紀前半の北欧。アイスランド、イングランド、デンマークあたりが舞台。クヌート、スヴェン王、フローキ、レイフ・エリクソンあたりは歴史上の実在の人物で、主人公のトルフィンはソルフィン・ソルザルソンという商人がモデルらしい(wikipedia)。史上最強の荒くれ者集団である北欧のバイキングの戦記と、戦乱に翻弄される庶民の運命が描かれる歴史絵巻という風情である。復讐編、奴隷編、帰郷編、北海横断編などにプロットは分けられる。
久々に読み返したら、面白かった。作品としては骨太で、プロットが入り組み重厚なので、初読での理解は難しいかもしれない(私は厳しかった)。個人的には、地理や文化の大枠を踏まえた上で読む2周目以降が素晴らしい。噛めば噛むほど味が出る。時代背景や登場人物の価値観に思いを馳せたり、新たな発見があり、何度も読み返す価値のある作品である。
『プラネテス』のテーマが母性の愛だとしたら、本作は父性の愛の話である。宇宙の話を書いたあとに、海賊を題材に選んだ作者のセンスには着目したい。本作のテーマは『バガボンド』が近いが、『キングダム』系でもある。「本当の戦士とはどういうものか」、「なんのために戦うべきか」など、そうした問いが出てくる。鬼のようなトルフィンの面相が、話が進むにつれて、憑き物が落ちるように、柔和に変わっていくのが味わい深い。
11世紀ヨーロッパの話であるが、話は現在にも通じる。本書のトルフィンの試みは、不良の多い学校や、肉体労働者のコミュニティで幅を利かせがちなマッチョな価値観に対する挑戦である。腕っ節の強さを至高の価値とし、弱き者を蹂躙し搾取することを当然とする社会では誰も幸せになれないため、最大多数の最大幸福を実現する、共生するためのシステムを作ろうという理想。そういうものを追い求めているがゆえに、普遍性がある。
本作は30巻くらいまで続くと予想。日本が世界に誇れるマンガ文化の層の厚さ、質の高さを感じる作品なので、もっと多くの人に読まれて欲しい。