初期の北方謙三のハードボイルド小説。
書籍は1982年(昭和57年)発刊。電子書籍Doly版を読。
主人公は弁護士をしている谷という40代の男。事務所を共に経営していた戸部という男の失踪から物語は始まる。主人公が戸部の身辺を探るうちに、陰謀に巻き込まれ、逃走しながら、事件の背後に潜む巨悪と戦うために友人たちとともに奮戦する…という話である。
全体に昭和の香りが色濃く、火曜サスペンス劇場のようなシーンが眼前に浮かぶ。世の中が今よりシンプルで、日本の中年男性にもっと住みよい時代だった頃の舞台装置が多数登場する(都合のいい女とか、吸い放題のタバコとか)。そして、暴力と謀略が支配する理不尽な世界で、主人公が男を張る。まさしく一時代を築いたハードボイルドの古典という感がある。
常識や良識はさておき、今読み通してみて、胸に残るものがあった。イーストウッドの映画にも通じる、理不尽な世界で筋を通す男の話が私は好きなのである。2000年以降の若者にはこの成分が足りない。