ホラーの名手スティーブン・キングが書いたホラーではない中編を集めた作品集。秋冬篇。
・スタンド・バイ・ミー(原題 The Body)
映画にもなった、12歳の4人の少年が夏の終わりに線路沿いに歩いて死体を見に行く話。作家になった主人公ゴードン・ラチャンスの回想という形式で綴られる。少年達は一見すると年相応に無邪気で無鉄砲なようで、それぞれ養育環境に問題があり心に傷を抱えている。
死体や吸血ヒルや暴力の描写など、とても美しいとは言い難い表象が多いけれども、揺れ動く少年達の不定形な心の流れが読み手に感傷を与える。ものの本によると「逆境を乗り越えて生き抜くレジリエンスの物語」とのことで読み始めたが、その通り、痛みを乗り越える少年の話であると思う。そのための儀礼は時として、醜悪で過酷な旅の形をとるのだ。
・マンハッタンの奇譚クラブ(原題 The Breathing Method)
ニューヨークはマンハッタンの法律事務所で働く初老の男性である主人公は、ある日、知人に誘われ社交クラブを訪れる。そこには上質な家具、静謐な空気、興味深い蔵書と美味しい飲み物(スコッチソーダ)があり、紳士達が毎夜、奇妙で興趣に富んだ物語を披露し、互いに耳を傾ける。クリスマスの夜に語られる、婦人科医師を長年続けた男の話が作中のメイン。
このブログのコンセプトに近いものを感じた。閉塞しがちで退屈な日常に命を与えるのは、醜悪なものであれ、非現実的なものであれ、活き活きとした物語なのである。