伊藤計劃の死後に出版された短編集。2012年初出。
『虐殺器官』のスピンオフである表題作、草稿段階の『Heavenscape』あたりは期待通り。短編漫画の『女王陛下の所有物』、『From the Nothing, With Love』あたりは007シリーズオタクにはたまらないと思われるが、予備知識がないと初読での理解は難しい。ただし、特に後者については定型化された行動パターンと意識についての切れ味鋭い洞察が敷衍されており、これぞSF文学、という感じがして読んでいて非常に楽しい。『解説』は円城塔(個人的に好きじゃない)とのコラボだが、文学としての極北という感があり、難解すぎて理解を諦めた。
良くも悪くも、伊藤計劃ワールドの全体像を楽しめる作品群。数をこなして読むと、登場人物に仮託された作者の潜在的な願望や理想像が見えてきて、興が醒めてしまうのはどの作家も同じか。過剰なハードボイルドとニヒルさよ。彼が生きていたら、この後、どんな言葉を紡いだだろうか。その行き着く先が見られなかったのは残念。