山口組系の暴力団の元組長・後藤忠政の回顧録。単行本は2010年初出。読んだのは2011年の文庫版。
後藤忠政は1942年(昭和17年)東京生まれ。四人兄弟の末っ子であり、幼少期に母が死別し、静岡県の富士宮で育った。幼少期に貧困を経験し、10代の頃から喧嘩に明け暮れ、少年院や刑務所への収監を繰り返しながら名を上げ、組織を拡大し、極道の世界でのし上がっていった。日本最大の指定暴力団の山口組の幹部にまで上り詰め、2008年(平成20年)に引退して仏門に入り、その後のインタビューを原稿化したものが本書である。
日本の「やくざ」のメンタリティを学べる本であり、暴力団の歴史の本である。創価学会との攻防や山一抗争の顛末など、実在の事件の裏話を含むリアルな後日談が散りばめられた、日本の裏の戦後史とも言えよう。淡々と語られる内容は凄絶であり、現実離れしている。人死にの出るような暴力の応酬について他人事のように恬淡と語り、(笑)の登場するポイントに凄みを感じる。
侠客たらんとするメンタリティは、次郎長を生んだ静岡という土地柄が育むものなのか。「やくざ」であるという職業上の美意識がそうさせるのか。日本の歴史上の必然なのか。悪でありながらも、抗い難い危険な魅力があるその振る舞いは、多くの歴史的、郷土的、文化的な事象が凝縮し、洗練されたものなんだろう。
非学術的な語り口の中に、辺縁にいる人間にしか出せない深みがある。人間が生きることの純粋な意味を見出せるだろう。なかなかいい読書体験だった。