2020年9月30日水曜日

半沢直樹(続編)


 前作で上司である大和田常務への復讐を遂げた後に半沢が異動となり、東京中央銀行の傘下のセントラル証券へ出向中の時点から物語が始まる。ストーリーはお馴染みの展開で、基本は嫌な奴が出てきて、半沢が組織の闇に直面し、正面からぶつかり、仲間が現れ、問題が解決する。

 第二シーズンは歌舞伎役者たちの吹っ切れた過剰な演技がウケたらしい(香川照之、片岡愛之助、市川猿之助、尾上松也)。前作の様式美を踏襲しながらも、お馴染みの敵役や仲間たちが生み出す空気感が心地よい。ベースには家族愛があり、友情があり、信念と侠気で戦う男のドラマが楽しめる。

 原作者だったか、撮影監督だったかがどこかで語っていたが、これはチャンバラの時代劇のような勧善懲悪の娯楽作品らしい。半沢直樹が侍で、会社が藩や幕府のような巨大な権力機構であると考えると納得である。体制にどっぷり浸かりながらも、組織の論理に抗い、個人としてあるべき筋を通す。これは日本人のための娯楽作品なんだろう。諸外国の人々にこの面白さが伝わるかは疑問である。

 日本全国で流行していたドラマの話題は楽しい。こういう作品がもっと増えてほしい。
   

2020年9月28日月曜日

映画クレヨンしんちゃん 失われたヒロシ


 27作目。2019年作品。

 オラの引越し物語のメキシコ、カンフーボーイズの中国に続く、オーストラリアが舞台の海外物。みさえとヒロシの数年ごしの新婚旅行の話であり、必然的にテーマは夫婦愛の話となる。後半、冒険はインディー・ジョーンズめいたジャングルの秘境の冒険となり、嵐を呼ぶジャングルにノリは近い。

 出来はまあ…今いち。一緒に観ていた娘らも後半飽きて遊び始めたし、大人狙いの夫婦の描写も制作側の意図がなんだかあざとい。個人的なクレしん映画ランキングでは下位にランクイン。

 きわどいネタが年々封じられ、制作側もたいへんなのだろうが、勢いよく振り切ってまた名作を生み出していってほしい。
   

2020年9月12日土曜日

天才! 成功する人々の法則


 突出した天才はいかにして生まれるか、を社会的な背景から考察した本。マルコム・グラッドウェル著。原著は2008年発行。日本語版は勝間和代訳。


 原題は”OUTLIERS”で、「外れ値」「きわだって突出した存在」を表す語である。プロスポーツのスター選手、コンピューター業界におけるビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、ニューヨークで大手事務所を経営する弁護士、音楽業界におけるビートルズなど、業界の中で突出した存在はいかにして生まれるか、その共通点を解き明かそうとする試みである。


 しばしば議論になる、「人間の才能を育むのに決定的なのは、生まれ持った素質か、育った環境か」という問いに対する答えは、本書を読めば得られる。例えば、本書における特に有名な部分「1万時間の法則」では、どんな業界でも突出した存在になるには膨大な時間をかけた蓄積が必要になるという仮説が紹介される。特定の分野において、その没入を可能にする環境に生まれつき、そのチャンスを掴んだものが、突出するのだ。突出した成功は先天的、遺伝的に規定されるIQや身体能力に依らないことは、本書に例示される人々の転帰を読めば理解できる。


 そして、「文化的な遺産」。人間のパフォーマンスは、その人物が生きる時代や場所、すなわち環境の条件に大きく規定される。団塊の世代は団塊の世代っぽい人に、日本のバブルの時代に社会人になった人はバブルの時代の人っぽくなるのだ。蓄積されたミームが、その人間の運命を規定する。自分のキャリア形成や、組織の運営、子育てなど、多くの分野に活用できる示唆が得られる。本書では大韓航空の航空機事故多発とその克服の過程なども、この「文化的な遺産」の視点から紹介されている。


 ひと昔前の本ではあるが、高城剛のメールマガジンでしばしば言及されているので読んでみたきっかけである。非常に有意義な読書体験だった。こういう良質なビジネス書を読んで生きていきたい。

   

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