突出した天才はいかにして生まれるか、を社会的な背景から考察した本。マルコム・グラッドウェル著。原著は2008年発行。日本語版は勝間和代訳。
原題は”OUTLIERS”で、「外れ値」「きわだって突出した存在」を表す語である。プロスポーツのスター選手、コンピューター業界におけるビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、ニューヨークで大手事務所を経営する弁護士、音楽業界におけるビートルズなど、業界の中で突出した存在はいかにして生まれるか、その共通点を解き明かそうとする試みである。
しばしば議論になる、「人間の才能を育むのに決定的なのは、生まれ持った素質か、育った環境か」という問いに対する答えは、本書を読めば得られる。例えば、本書における特に有名な部分「1万時間の法則」では、どんな業界でも突出した存在になるには膨大な時間をかけた蓄積が必要になるという仮説が紹介される。特定の分野において、その没入を可能にする環境に生まれつき、そのチャンスを掴んだものが、突出するのだ。突出した成功は先天的、遺伝的に規定されるIQや身体能力に依らないことは、本書に例示される人々の転帰を読めば理解できる。
そして、「文化的な遺産」。人間のパフォーマンスは、その人物が生きる時代や場所、すなわち環境の条件に大きく規定される。団塊の世代は団塊の世代っぽい人に、日本のバブルの時代に社会人になった人はバブルの時代の人っぽくなるのだ。蓄積されたミームが、その人間の運命を規定する。自分のキャリア形成や、組織の運営、子育てなど、多くの分野に活用できる示唆が得られる。本書では大韓航空の航空機事故多発とその克服の過程なども、この「文化的な遺産」の視点から紹介されている。
ひと昔前の本ではあるが、高城剛のメールマガジンでしばしば言及されているので読んでみたきっかけである。非常に有意義な読書体験だった。こういう良質なビジネス書を読んで生きていきたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿