山本七平著、初出は昭和52年(1977年)、日本人の思考および行動に強く束縛を与える『空気』に関する論考の書である。佐藤優が薦めていたので昔買ったものを再読。
私個人の考えだが、人を動かすのは「論理」と「空気」であると思う。「論理」は学校の勉強の延長上にあるものであり、合理的に説明可能な情報の連結、といえようか。しかし、「論理」の力で一生懸命説明しても世の中の大部分の人は動かない。正当な根拠に基づき論理的な説明をしているにも関わらず相手の良好な反応を得られないために憤慨したり落胆したりする、というのが、勉強が得意な人達が社会に出てしばしば陥りがちな敗北や挫折のパターンである。特に日本においては。
そこで「空気」の話である。太平洋戦争の時に日本軍が沖縄への無謀な特攻出撃で戦艦大和を失ったことについて当時の司令長官が述懐し、「(あの会議室の空気では)ああせざるを得なかった」と語ったエピソードが紹介されている。今考えると(当時としても)作戦はあまりに無謀であり、一言でいうとただのバカである。しかし、そのバカのせいで数千人単位の死者を出したり、戦局が大きく劣勢に傾き日本が敗戦国になったりするわけだが、賢い人達がなぜバカな判断をするのか、という不思議な現象の仕組みを、本書では豊富な具体例を提示し、作者の宗教・歴史・社会学などの潤沢な知識を駆使して論考している。
結論としては「空気」の存在に気付き、その性質、特に影響力と対処法を理解することが社会生活においてうまくやっていく秘訣であろう、ということ。ノリや雰囲気などが大事なのである。おそらく、電通や糸井重里あたりはそういう戦いをしている。