クリント・イーストウッド監督のアメリカ映画。2019年作品。
Amazonの配信のレンタルで鑑賞。
1996年に実際に米国アトランタで起きた爆破テロ事件の話である。五輪会場近くのコンサート会場となっていた公園に爆弾が仕掛けられたが、警備員のリチャード・ジュエルが偶然発見し、居合わせた人々に避難を促し、結果として爆破規模に比して死傷者は少なく抑えられた(死者2名、負傷者111名)。事件後、彼はマスコミに英雄として扱われたが、やがて論調が変わり、犯人の疑いをかけられ、メディアや大衆の総攻撃を受けるようになる。
イーストウッド映画は、現実世界の理不尽の中で筋を通そうとする人間を描くものが多い。本作の主人公、リチャード・ジュエルは欠点が多いながらも善良であろうとする凡庸な一市民に過ぎないが、突如として襲われる理不尽に対し、何ができるか。相棒となる弁護士(サム・ロックウェル)とタッグを組み、見えない敵に立ち向かう。
撮影時点でイーストウッド監督は89歳だったそうだ。加齢により様々な能力は衰えていると推察されるが、培ってきた美的感覚や価値観は失われないのだろう。本作品は無駄がないため、観ていてストレスがない。何気ない描写の積み重ねによって浮き立つ、シンプルでソリッドな美学がある。その美学や哲学、通底する原理のようなものには普遍的な価値があり、観る人間の心を動かす。クールだ。