2020年11月29日日曜日

リチャード・ジュエル


 クリント・イーストウッド監督のアメリカ映画。2019年作品。
 Amazonの配信のレンタルで鑑賞。

 1996年に実際に米国アトランタで起きた爆破テロ事件の話である。五輪会場近くのコンサート会場となっていた公園に爆弾が仕掛けられたが、警備員のリチャード・ジュエルが偶然発見し、居合わせた人々に避難を促し、結果として爆破規模に比して死傷者は少なく抑えられた(死者2名、負傷者111名)。事件後、彼はマスコミに英雄として扱われたが、やがて論調が変わり、犯人の疑いをかけられ、メディアや大衆の総攻撃を受けるようになる。


 イーストウッド映画は、現実世界の理不尽の中で筋を通そうとする人間を描くものが多い。本作の主人公、リチャード・ジュエルは欠点が多いながらも善良であろうとする凡庸な一市民に過ぎないが、突如として襲われる理不尽に対し、何ができるか。相棒となる弁護士(サム・ロックウェル)とタッグを組み、見えない敵に立ち向かう。


 撮影時点でイーストウッド監督は89歳だったそうだ。加齢により様々な能力は衰えていると推察されるが、培ってきた美的感覚や価値観は失われないのだろう。本作品は無駄がないため、観ていてストレスがない。何気ない描写の積み重ねによって浮き立つ、シンプルでソリッドな美学がある。その美学や哲学、通底する原理のようなものには普遍的な価値があり、観る人間の心を動かす。クールだ。

   

2020年11月27日金曜日

ルパン三世 カリオストロの城


 地上波の金曜ロードショーでやっていたのを録画したものを鑑賞。
 1979年作品。宮崎駿監督。

 登場人物はお馴染みのルパン一味だが、全体に雰囲気や展開がハヤオ節である。ラピュタのパズーのようにルパンが壁によじ登ったり、爆発したり、カーチェイスが展開される。次元と食べるパスタも美味しそうだ。アルプスの少女ハイジなどで培ったと思しきヨーロッパの山や湖畔の景色が展開し、味のある古城が舞台になる。そして、女の趣味は完全に宮崎駿の好みだ。

 なぜこんなにも有名な作品になったのか、と考えてみる。ルパンというコンテンツ自体に魅力があることに加え、宮崎駿エンターテイメントの一つの完成形だったからだろう、と推察される。上映期間の興行収入が突出していたわけではないそうだが、関係者の評価は一貫して高く、繰り返す地上波での放映などを通して、じわじわと人気を獲得していったらしい。お色気シーンが控えめなこともあり、安心して子供に見せられるというのも大きい。お茶の間で家族みんなで楽しめる作品であるがゆえ、地上波で力を発揮したのかもしれない。

 深く考えずとも、質が高くて楽しい。日本が誇る娯楽作品の金字塔であろう。
   

2020年11月25日水曜日

山本さんちのねこの話


 飼い猫の「トルコ」との馴れ初めや、共に暮らす日々を描く。2017年初版。


 様々な媒体に書いていた猫の話を加筆修正してまとめた感。サクッと読め、それなりに笑える。全体にアラサー独身女性の生活感が全面に出ており、猫との暮らしのリアルな空気が感じられる。


 不満は、猫カフェに行った話と中高年男性がキャバクラに行った話を併置する最高傑作が載っていないことである。(下記リンク)

 https://twitter.com/sahoobb/status/493922532878061568

 https://twitter.com/sahoobb/status/494273330053005313?lang=hu

   

2020年11月22日日曜日

Mr.Children 道標の歌


 2020年11月発売。ミスチルのお抱えライター(?)である小貫信昭氏が綴るMr.Childrenの歴史の本。手元に届いて1日で読んでしまった。

 小貫氏は25年にわたりMr.Childrenの取材を続けており、メンバーおよび関係者の直接のインタビューに基づく内容が多く、事実関係には信頼が置ける。時点時点においての楽曲制作の背景、活動の水面下での状況、各人の心情など、目新しい内容は少ないが、長年のファンにとって味わい深いものが多い。いろいろ詳しく書いてあるが、プライベートやセンシティブな話題(離婚の話とか)に触れないあたり、メンバーへの気遣い(愛)を感じる。

 本書の構成は桜井、田原、中川、鈴木(Jen)の中学と高校での出会いから掘り起こし、下積み時代、1992年のメジャーデビューから、2020年現在に至るまでのロックバンドMr.Childrenの歴史が、時系列順に書いてある。各章のタイトルは『innocentworld』、『終わりなき旅』、『Sign』などその時代を代表する楽曲名である。

 ミスチルは2020年現在デビュー28年目で、人気は衰えることなく、日本の音楽業界のメインストリームに存在し続けている。その秘訣となっているのは、メンバーの音楽に対する貪欲さや真摯さであると、随所から感じ取られる。そして、長続きするバンドであるためには、メンバー間でのほどよい距離感、礼節、誠実さ、素朴な感じの良さが必要なのかと、それぞれの言動や事実関係の端々から気づかされる。一言で言えば、イヤな奴がいないのだ。それがどれだけ希有であり、力強いファクターであるか、考えることも一興であると思われる。

 来月発売のアルバム『SOUNDTRACKS』へ向けて、気分を高めるには最適の一冊である。
 

2020年11月8日日曜日

鬼滅の刃(アニメ)

 
 話題のアニメ、全26話をAmazonプライムで視聴。

 2020年11月現在、本作は日本で久しぶりに聞く「社会現象」になっていて、その話題を聞かない日はほとんどない。菅首相が答弁で「全集中の呼吸」と言ったとニュースになり、店にはグッズが溢れ、小学生は学校で鬼滅の話で持ちきりだという。その影響を受け、ついに我が家でも観るに至った。還暦を過ぎた義母も観ているというからよっぽどである。

 私は原作も既刊22巻まで読んだが(最終巻が12月発売なのでその後感想を書く予定)、やはりアニメがいいと思う。特に戦闘シーンが動画だと抜群にわかりやすく、剣技や敵の特殊能力(血鬼術という)とともに見ていて楽しい。キャラも立っており、それぞれ魅力があるので、誰しもお気に入りのキャラが見つかるだろう。元は深夜枠のアニメだったこともあり死体などの残虐な描写が多いが、忌避すべきような悪質なものではないので、小学生くらいなら見せてもいいと個人的には思う(就学前の子供に考えなしに見せるのは良くないと思うが)。

 物語作品としては、過去に先人たちが生み出してきたレガシーをしっかりと継承し、王道のジャンプ漫画をやっている感がある。大正時代の世界観や技の雰囲気は『るろうに剣心』に近く、ヴァンパイアものの作品であるという点で『ジョジョの奇妙な冒険』のエッセンスを感じる。善逸のキャラ造形には『銀魂』の影響を強く感じる。それらを折り込みつつ、主人公の炭治郎の優しく、誠実で、家族愛に生きる感じは、令和のヒーロー像という感じがする。

 コロナ禍の影響などの諸条件が偶然重なったことで日本中が注目するメガヒットコンテンツになった感はあるが、今この瞬間、この波に乗っかるのが楽しい、という一体感もセットで楽しむのが吉である。この作品に登場する概念は、今後日本の文化に根付くのは間違いないので、日本人なら絶対に観ておくことをお奨めする。職場の序列を「柱」に例えたりすることで、社内のコミュニケーションが円滑に運ぶであろうことは間違いない。