実在の事件(埼玉愛犬家殺人事件)をモデルに園子温が映画化。小さな熱帯魚屋を営む冴えない中年男が、偶然出会った陽気な男に取り込まれ、陰惨な猟奇犯罪に巻き込まれる。
主犯格の男(役名は村田)のサイコパスな振る舞いの演技が秀逸。表面上の快活さと威圧の使い分けで精神的奴隷を生み出す手法は、北九州の連続殺人の犯人(松永太)を想起させる。精力的な振る舞い、キレのある弁舌、理解を示す態度と暴力の緩急、ボディタッチ、ユーモア、性的な貶め、共犯者に仕立てる、など、細かなテクニックの表現と、悪びれない役者の演技がかなりそれっぽい。
近い作品として思い出したのが『ファイトクラブ』と『ファーゴ』。前者は現実社会に屈服し抑圧された男が潜在的に抱いていた暴力・支配・性的放縦への憧れが象徴的人物として目の前に出現する。後者はイケてない人達の社会に潜む陰惨な暴力衝動の現実化。『ウシジマくん』も似たようなもんか。
露骨な性描写や、死体の解体などキツいシーンが多いのでR-18指定は納得。観る人は選ぶだろう。モデルとなった事件も調べる程に怖い。それでも、エログロで下品なだけの娯楽ではない。目を背けたくなるような惨劇の中に、ある種の人間の真実は光る。残虐な男、狂った女の抗いがたい原始的な魅力には、日常で見失いがちな普遍の人間真理が宿っている。