20世紀中国に生きた3代の女性を描いたノンフィクション。ユン・チアン著。原典の英語版の初出は1991年。
1952年に中国四川省で生まれた著者が、丹念な取材に基づき、祖母、母、自分の3代の女性を取り巻いていた社会状況と、その中で生きた人々の姿を描いている。国共内戦、日本軍による満州の占領、共産主義革命、大躍進政策、文化大革命など、学校の教科書で学ぶ用語の背景にある20世紀の中国社会は、おびただしい人間の血が流され、何千万という家族や友人が別離し、理不尽に運命が翻弄される激動の時代だった。とりわけ、1960年代から始まった文化大革命の時代に中国全土を覆った恐怖と混乱は、筆舌に尽くしがたい凄惨さがある。20世紀中国に生きるのは難易度が高すぎで、ほぼ運ですべてが決まる感があり、平和な日本に育った自分なんかではとても生き残れる気がしない。
読んでいて思い出したのはフランクルの『夜と霧』。己の生命が危ぶまれる極限の状況の中で、人間としての尊厳を体現する、真の意味で尊敬に値する人物は存在するということ。本書においては、著者の家族、特に両親の生き様については、深く心に残るものがあった。滅私、利他、フェアネス、清廉さ、家族愛など、既存の価値観が破壊され、人が人を裏切り傷つけ合うことを余儀なくされた地獄のような状況の中でも、勇気をもった人間によって体現されたそれらの美徳は、本作の中で普遍的な輝きを放っている。
もう一つ、読んでいて気づいたのは、文化大革命のときに毛沢東が自国で使った手法は、形を変えて他国で使用されているのではないかということ。これは共産主義者の常套手段で、日本の全共闘による学生運動(1965年頃~1972年頃)も、現在の米国BlackLivesMatterの過熱も、他国に応用した同様の手口に思える。綺麗事で無知な若者や貧困層を扇動し、暴走させて、政敵を潰し、狙った国を弱体化させる。子供、女性、特定の人種、障害者など、社会的弱者が前面に出て、権威を主張して暴れ出した時は、中国共産党のことを思い出そうと思う。
生涯読んだ中でも、読んでよかったと思える本のトップクラスに来る名作である。まさしく歴史を変える一冊と言えよう。今後、多くの人に薦めていきたい。