2020年8月15日土曜日

無能の人・日の戯れ


 つげ義春の漫画。電子書籍をヨドバシのDolyで読。昭和60年頃(1980年代前半頃)の作品を所収したもの。

 後半の『石を売る人』が有名だが、前半の1話完結の作品群もよかった。全編を通して私小説のような感があり、おそらく20~30代、健康体で東京に暮らしているが、金もなく、情熱もなく、エネルギーを注ぎ込む仕事もない、有閑の男が見る狭い世界の描写が淡々と続く。倦怠感が全編に満ち、無為に生きる人間の心象風景が活写されている。


 2020年の今読むと、インターネットや携帯電話が登場し、社会のスピード感が高くなる前の時代の空気が味わい深い。ダメで冴えない人たちが多数登場するが、みな心に余裕があり、人間味がある。垢抜けない男女の生々しい性愛や、純粋な家族の愛情も描かれる。これが真のスロウライフとさえ思える。テクノロジーが消し去ろうとする人間の味が保存された、令和の今読む価値のある作品だろう。

   

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