スペンサーシリーズ第7巻。オリジナルの英語版は1980年に初出。日本語版はハヤカワ・ミステリ文庫より1988年に発売。おそらくシリーズで最も有名な作品である。
舞台は1980年頃のボストン。私立探偵のスペンサーが、離婚協議中の夫婦に依頼された仕事に携わる中で、10代の少年ポールに出会う。彼は無知で自分勝手な両親の関心を得られず、幼少期よりネグレクトされ育ったために、自主性をもたず、何事にも投げやりで、己を救う術をもたなかった。ポールの不遇を知り、仕事上の成り行きもあり、スペンサーが彼を一人の自立した人間にするために、一夏を共に過ごすことになった。体を鍛え、湖畔に家を建て、芸術を観賞し、敵と戦いながら、人生において大切な物事の理をスペンサーが少年に教え込む、という内容である。
大学生の頃に読んで以来の再読だが、これはかなり好きな作品だと再確認した。孤高のヒーローを描くハードボイルド小説の進化系であり、単なる娯楽作品の域を超え、心に残るものがある。金城一紀のフライダディフライ(小説)や、映画の『ベストキッド』なんかに通じる、師弟関係、人間的成長、人生の不条理に挑む姿などには普遍的な価値があるんだろう。簡潔で皮肉な文体、スペンサーのタフでドライな洗練された行動原理もいい。
個人的に、秋に読みたくなったから気まぐれに読み返してみたわけだが、すごくよかった。体を鍛え、本を読み、美味いものを食べつつ、人生を謳歌したくなった。