2015年12月31日木曜日

narrative of the year 2015

 今年一番読んでいて楽しかったのはこの本。理系の知り合い全員に強く薦めたい。

 昭和の空気、格闘技業界の歴史、常識を超えた怪物の生き様。作者の偏愛と情熱がいい味。

 人間の暗部の描写に惹き込まれる。東京は怖い所だと思う。

 筆者同世代のノスタルジーが全開。今日買った2巻では中学生編に突入。

 ミスチルの最高傑作。今も毎日聴いている。

 溢れる男気の映画。

 良質なハラハラ、ドキドキ。歴史的事実に基づいていると知り驚愕。

 美しい流麗な日本語と繊細で透徹した洞察は読んでいて気持ちいい。自己完結型の克己心と他者との出逢いがスクラップアンドビルドにも通じる。

 道徳や常識に抑圧された衝動にまつわる話を、骨太なプロットで。

 立川談志のロックな生き方に想いを馳せた。
   

スクラップ・アンド・ビルド


 失職中の20代後半の男が祖父と同居する話。
 今年の芥川賞受賞作。ピース又吉じゃない方。

 就職活動中の主人公とデイサービスに通う祖父という、生を謳歌せんと奮起する若者と死に向かい衰えゆく老人との対比や化学反応という主題が軸にある。が、そんな純文学的な理屈はさておき、ドライなクソ野郎の主人公が目指す自己完結型の世界が面白い。泣き言を漏らす老人を見下し、強い決意をもってオナニーと筋トレに励んで己を高める若き魂が迷走する姿に、己を重ね身につまされる男子は多いはずだ。たぶん。

 テーマに高齢者介護と20代の若者の就職という旬の問題を扱うあたり現代文学。作者の日本語があまりうまくないんじゃないかと思われる表現が多々あるが、勢いで面白く読めるので良しとしたい。

 普通に面白いので人には薦めたい。人間なんてこんなもんだ、という現代文学。


 …とここまで書いてアマゾンレビューを読んだ所、もっと深い考察があって「なるほどね!」と思った。初読でも面白いけど、吟味しながら再読しても楽しめそう。きっといい本なんだろう。

2015年12月27日日曜日

ニューロマンサー


 感想:読みづらいし意味わかんねえ。

 1984年に出版され、サイバーパンクという潮流を生み出したSF業界における歴史的作品とのことで手に取ってみたが、読んでもよく分からなかった。気合いで全ての文字に目を通したが、これほどまでに内容が頭に入ってこない作品というのも珍しい。自分の頭の整理がてら、項目に関して説明してみる。以下は黒丸尚訳に基づく。wikipediaも参照。

 ケイス:主人公。電脳空間(サイバースペース)に意識を送りこむ仕事をしている男。
 コンピュータ・カウボーイ:ケイスの仕事。電脳世界で色々する職業。
 モリー:ケースが千葉にいたとき仕事を紹介してきた女。全身を武装している。
 アーミテジ:ケイスやモリイ達にヤバい仕事を依頼した謎の人物。
 リヴィエラ:見た目が綺麗な女性。
 冬寂(ウインターミュート):AI(人工知能)。アーミテジが潜入を依頼した標的。
 テスィエ・アシュプール:冬寂を保有する財閥の一つ。
 3ジェイン:テスィエ・アシュプールの一族の一人。
 ヒデオ:3ジェインの部下。忍者。
 ヴィラ迷光(ストレイライト):テスィエ・アシュプールの会社がある場所。

 あらすじ:ケイスが電脳世界に侵入し敵と戦う。

 Wikipediaによると、”『ニューロマンサー』には、『ブレードランナー』で示された猥雑な未来世界のガジェットと、電子世界に人体を「接続」し、意識ごとダイブするというアイデアが結合されており、文句なく新しく「サイバー」であり「パンク」であった。”とのこと。

 よく分からねえ。『攻殻機動隊』や『マトリックス』のご先祖様、ということにする。『マルドゥックスクランブル』の文体の見本らしい。後世への影響は計り知れなかった、ということで良しとする。10年後くらいに再読した時、味わえることに期待する。読んで楽しめる人が居たらぜひ解説してほしい。筆者には理解できなかった。
  

2015年12月26日土曜日

宇宙兄弟


 遅ればせながら漫画原作を最新刊(27巻)まで通読。

 軸にあるのは宇宙飛行士になった弟(日々人)の後追いで宇宙飛行士を目指すことになった兄(六太)の話。ユルく、ヌルい男である六太が諦めきれなかった夢を目指すその過程で、多くの人達に出逢い、それぞれの物語が重層的に絡み合っていく。

 基本的には誰かが誰かに力をもらい、遠くを目指していくという定型が続いていく。日々人、六太、シャロン、ケンジ、せりか、ブライアン・ジェイ、それぞれの家族、友人、同僚…etc.、それぞれ誰かにエネルギーを与え、その受け取ったエネルギーで誰かがいっそう遠くを目指す。己の限界を超え、恐怖を克服し、困難に挑んでいく。それぞれが背負った物語のために。

 登場人物にはみな愛があり、思いやりに満ちた性善説の世界が描かれるが、こういう物語で純粋培養されたお人好しは、現実世界では力道山みたいな卑劣な怪物に食い物にされてしまうだろうな、という懸念も湧いた。読む人に愛と勇気を与える良質な物語であることは疑いないが、人間の邪悪さへの免疫をつけるための毒が足りないという点が個人的には瑕疵に思える。

 とは言え、サクッと読める娯楽作品としては秀逸。NASAの機材や技術など、同時に読んでいた『火星の人』の描写の映像のイメージを補完してくれた。何より「人が宇宙を目指す」というロマン溢れる明確でストレートな隠喩が、読む人に力を与えてくれる。

 読んで楽しく、自分も頑張りたくなってくる、いい話。
    

2015年12月21日月曜日

火星の人


 最高すぎた。

 火星に一人取り残された男のサバイバル小説。
 理系の素養があるほどに興奮は必至。

 今年のNo.1。

   

2015年12月15日火曜日

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか


 昭和29年12月22日、「昭和の巌流島」と題されてテレビ中継され、日本中が熱狂し注目したプロレスの試合で力道山の騙し討ちに遭い破れた木村政彦の心情を、その生涯を詳細に辿りながら綴っていくノンフィクション。

 読み進める中で、筆者はかつての自身の体験と交錯し、平常心ではいられなかった。木村政彦を陥れた力道山のような「卑劣で面倒くさい怪物」は存在する。筆者が周囲にしばしば漏らす大学生活における不愉快な思い出は、約2名ほど同学年付近にいたこの力道山系の人物に起因する。利用価値のある者にはおもねってすり寄り、価値がないと判断した相手は掌を返して使い捨てる。他人が築き上げたものを剽窃し、相手の善意や信頼を簡単に裏切り、陥れる。不器用でも筋を通し、気高くあろうとする武士道のような理想を生きる人間が食い物にされる。インターネット上で悪く書かれている在日朝鮮人の振る舞いの王道をいく感じ、と言えばいいだろうか。信用して付き合うとマジで厭な目に遭うのである。自身の築き上げた栄光を汚され、下劣な欲望の手段として利用された木村政彦のように。

 読むと力道山のゲスさに生理的嫌悪感が生じるが、その屈辱を木村政彦がどのように受け止めて後半生を生きたか、という心情に作者は詳細に史料を検証しながら迫っていく。柔道の正史から抹消され、力道山の引き立て役として貶められた木村政彦という柔道史上最強の(おそらく人類の格闘技史上最強レベルの)誇り高き格闘家の名誉復権の物語である。常人には決して届き得ない型破りで圧倒的な強さを手に入れた男の栄光、没落、悲哀、救済、葛藤、そうしたものをリアルに味わえる。不当に貶められたまま歴史の闇に葬られかけていた、不器用で純粋な愛すべき男の人生に、柔道経験者の作者が光を当てる。
 
 その生涯には綺麗も汚いもない、命の輝きと儚さがある。読めば人間への理解に深みが出る。
 今年読んだ評伝ではベスト。グイグイ引き込まれる骨太の物語である。
    

2015年12月2日水曜日

孤独のグルメ2


 18年ぶりの新刊らしい。テレビのドラマ人気にあやかっての続編と思しい。

 前作より作画の線が細くライトな印象。そしてオヤジギャグが(良くない意味で)一層過剰に。原因としては原作者の加齢、漫画の作風に関する流行の変化、連載誌(SPA!)の編集部の要請、などが考えられる。

 とは言え、作品を名作たらしめるエッセンスは健在。静岡の汁おでん、お茶漬け、煮込み定食、とんこつラーメンの話がお気に入り。一人でメシを食う、それだけの楽しみを最大限、誠実に、忠実に、描き出している。筆者も旅先でよく実行するが、本当の意味で心が救われる。単純で普遍的な生きる歓びのあり方を教えてくれる。

 などと書いてみたが、単純に読んでいて楽しい。美味しいものを食べたくなる。それが全て。

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