iTunesストアで100円セールをやっていたため、何とはなしにレンタルして観たが、思いのほかよくて見入ってしまった。レゲエミュージックの祖、ボブ•マーリーの伝記映画。2012年作品。
ボブ・マーリーはジャマイカの山村の出身。白人と黒人との混血であるために幼少期から迫害を受け、音楽に救いを見出して育った。10代後半でジャマイカの首都キングストンの貧困層の集落(トレンチタウン)に移り、仲間たちと音楽活動に取り組んだ。やがて、新たな音楽のスタイルであるレゲエを生み出し、世界に向けてメッセージを放ち、熱狂を与えた。そして、世界中をツアーで巡っていた人気絶頂のさなかに悪性腫瘍のために36歳の若さで早逝したことで、その存在は伝説となった。
彼が信奉したラスタの思想は土着の宗教にしばしば見られる非論理的で神秘主義的な匂いが強いが、本作品で映像と共に彼の生活史を追うと、そこにもまたが必然性があるのがわかる。無学な彼の振る舞いやメッセージに宿る魅力は、身体感覚と生活感に根ざす反知性主義の本懐という感じがする。超越者への帰依と信仰、性的放埓、音楽的な官能への没頭、苦しみの生を生き、衆生に救済への道を説く、など、宗教的カリスマの類型にしばしば見られる要素が揃っている。
彼の佇まいには、何かエルネスト•ゲバラに近いものを感じる。物静かで、情熱を秘め、勇気を持って戦い続ける。そして、底には深い愛がある。生きることの悲しみを芸術に昇華し、誰かのための光にする。普遍の価値ある生を生き抜いた個体と言えるだろう。本作品はそんな偉大な魂の記録といえよう。