2012年10月28日日曜日

光圀伝

  
 血の熱く滾る男の一代記。

 「水戸黄門」の漫遊譚で親しまれる水戸徳川の光圀公。後世流布された穏やかなイメージとは異なり、激情家で、己の生の全てをかけて詩歌、史書編纂、治世に取り組んだ。その闊達な幼少期の日々から、晩年の諦観に至るまでの軌跡が描かれる。

 侠気があり、浪漫があり、愛がある。読耕斎、泰姫、保科正之、武蔵、沢庵、安井算哲、朱舜水、佐々など、登場人物も底知れぬ魅力をたたえた者ばかり。
 人が生きて、そこにいた。
 その証左こそが史書であり、今もそこに在るかの如く記すことが、亡き者への最大級の弔いであり、見果てぬ大義を未来に託す願いとなる。
 
 今年読んだ中で最高の1冊。
   

2012年10月27日土曜日

シャイニング


 冬の山麓のホテルで過ごす家族の父親の気が狂う話。

 思いのほか怖くはなかった。背景を説明しすぎないあたりこだわりを感じる。キューブリックの映像美とジャック・ニコルソンの演ずる狂気を堪能すべき。

 双子、鏡、迷路など。見ていてインスピレーションが湧くイメージを配置しているのが楽しい。建物自体の存在感も見事。

 息子が持つ「シャイニング」という特殊能力はあまり目立たない。
   

2012年10月21日日曜日

es


 原題はDas Experimentというドイツ映画。『es』は日本用タイトルらしい。心理学っぽい用語だからか。

 実際にあったスタンフォード監獄実験という社会心理実験がモデル。模擬刑務所の中で無作為に選んだ成人男性を看守役と囚人役とに振り分けたらどうなるか、というのを検証する実験の話。

 「チベットの紅衛兵の方がひどいことやってるよな」と思いながら観てた。実社会でイケてない奴の心の中で育まれた残虐性が閉鎖環境で暴走する。

 異性にモテないと人は残酷になる、という日頃密かに抱いている仮説を支持する作品であった。
   
 

ドラゴンタトゥーの女


 月刊誌ミレニアム編集部の記者がスウェーデンを牛耳る富豪一族の血塗られた歴史に切り込む。タイトルの人はメンヘラでヤンデレな天才ハッカーで主人公とタッグを組む。

 北欧の厳冬の陰鬱なムードとApple製品の組み合わせがグッド。デイヴィッド・フィンチャーらしい抑えられた色調でいい雰囲気を出してる。

 ストーリーに特筆すべき点はないが、映像と展開がセンス良く、観ていて飽きさせない。
    

孤独のグルメ



 雑貨の個人輸入をやっている男が一人でメシを食う。
 ただそれだけの話の連作集。

 ふらっと立ち寄った定食屋の「豚肉いためライス」や、深夜にコンビニのおでんや総菜をただ食べるだけの話も。秋葉原のカツサンド、炎天下の野球場のカレーライス、新幹線のシューマイ弁当…etc.

 都会で独り生きる男の癒しがそこにはある。
 寂しさの分かる大人の漫画。
 

2012年10月20日土曜日

ブラックスワン


 エロと芸術の切っても切れない関係の話。

 主人公(ナタリー・ポートマン)がバレーで『白鳥の湖』の主役(プリマ)を踊るにあたり、ホワイトスワンとブラックスワンを踊らなくてはならなくなる。ホワイトスワンを精密で端正に踊れるけど、ブラックスワンの悪魔的な官能性を表現できなくて困る。「もっとエロくなれよ!」的なことを振り付け師に言われて、、、というのが筋。

 白鳥=純潔、天使、従順、理性的、調和、処女性、規律と秩序
 黒鳥=淫蕩、悪魔、野生的、危うさ、ビッチ、官能、妖艶、情欲と衝動

 ニーチェが芸術は2パターンあると言っていた。
 音楽と弓矢の神、アポロン的な調和。
 酒の神デュオニソス(バッカスともいう)的な荒々しい衝動。

 脳の新皮質=制御
 辺縁系=衝動
 という対比もぼんやり考えてみたりして。
 パッとしない優等生が化けるにはエロが必要だ。
 
 でも実は統合失調症の話でした、っていう映画が多いなって思う今日この頃。
   

2012年10月15日月曜日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い


 9.11の喪失と、そこからの再生の話。

 テロで父親を失った子供が、遺品の鍵の意味を探して街中駆け回る。
息子を失った母親に芥子の実を探させる仏教の説話を思い出した。

 原題はExtremely Loud and Incredibly Close.
 New Yorkの街と、そこに生きる人の絆みたいな意味、かな。

 良くも悪くもアメリカの話。
 人によっては抵抗ありそう。
   

2012年10月14日日曜日

わが家の母はビョーキです



 統合失調症の母と共に育った娘のエッセイ漫画。
 これが、普通の感覚だな。

 一般人の感覚で、医療者じゃない普通の視点で、統合失調症という疾患を記述。苦労人の母だったけど、女手ひとつで親としての役割を果たしてくれた。母はしばしば幻聴に行動を左右にされ、幼い作者は包丁で刺されそうになったりする。だけど学校行ったり、仕事探したり、普通にライフイベントはあるわけで。

 疾病教育に一番使えそうな教材。
 疾患についての正しい知識と、希望がある。
 周りでSchizophreniaを発症して困っている人がいたら、これを一番に薦める。
  

2012年10月12日金曜日

SP 警視庁警備部警護課第四係


 要人の警護をするSP(Security Police)の話。基本的にはテロリストとのバトル。話が進むにつれ、主人公達の因縁と国家規模の陰謀が明らかになる。

 全体的に落ち着いたトーン。戦闘シーンには緊迫感があり、観ていて面白いんだけど、画面の向こうにしたり顔の金城一紀の顔が浮かんでしまうのは氏の映画ブログを読みすぎたせいかもしれない。

 結末に期待しすぎたのか、最終話である劇場版の「革命篇」でやや肩すかし。ストーリーはさておき、岡田准一の身体能力と真木よう子の佇まいが素敵。楽しみどころをわきまえればいいのか。

 娯楽作品としては上質な部類に入るかと。
    

2012年10月8日月曜日

星の王子さま


「人間はみんな、ちがった目で星を見てるんだ。旅行する人の目から見ると、星は案内者なんだ。ちっぽけな光くらいにしか思ってない人もいる。学者の人たちのうちには、星をむずかしい問題にしている人もいる。ぼくのあった実業屋なんかは、金貨だと思ってた。だけど、あいての星は、みんな、なんにもいわずにだまっている。でも、きみにとっては、星が、ほかの人とはちがったものになるんだ……」

・・・

 初めて読んでみたけど、けっこう難解。飛行機の墜落からの砂漠で遭難ってのはサン=テグジュペリの基本テーマらしい。語り手が砂漠の孤独の中で出会った、いくつも星を旅してきた小さな王子の話。

 きっと読む年齢によって見えるものが違うんだろう。
 言葉は平易だけど、年を重ねてから読むほど、底にある主題を味わえる。
 名作とは得てしてそういうものだ。

 心の目で見なくちゃ、自分の欲しがってるものも分からなくなってしまう。
   

2012年10月7日日曜日

Q


あぁ コーヒーを飲むよ
タバコも飲むよ 飲むよ
お酒も 飲むよ 飲むよ何だって 飲むよ
人を物真似した
後先とか考えちゃ駄目だよ
だってそもそも今日の自分なんて初めから無いも同然だからね
もう いいかい?
そりゃそうだよ
例えばそれが無茶苦茶な要求だろうが
例えばそれが傲慢な女のわがままだろうとさ
飲むよ 飲ませてちょうだいよ
いいねぇ 飲む達人になりたいね
ある意味もう憧れに近い感じだね
赤塚不二夫にキース・リチャードね
野坂昭如に藤原組長でしょ
粋だねぇ 下町情緒だよね
あぁ それはちょっと違うか?
脱線しちゃったね 脱線だね
でも僕はね 脱線はいいけど惰性で生きちゃ駄目だね
これ僕のポリシーだよ
惰性で生きちゃだめ これ僕のポリシー
上手いこと言った! 上手いこと言った!
  友とコーヒーと嘘と胃袋

・・・


 ミスチルの9thアルバム。
 無秩序と新奇性を求め、実験的な要素が多い。
 酔ってクダ巻いてるのを録音した部分が、個人的にはハイライト。 
   

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