史実に基づくスティーブン・スピルバーグ監督の2005年作品。
1972年のミュンヘン・オリンピックで起きた代表選手の殺害事件を受け、イスラエルの諜報機関(モサド)が犯人であるパレスティナ人の暗殺を企てる。同機関の工作員である主人公が標的を追って、ヨーロッパ各国を駆け回る。
ユダヤ人である自身のルーツを作品に投影するスピルバーグの作風が典型的に表れている作品であるように思う。祖国、ユダヤの歴史、放浪、安住の地の希求、など、枚挙すれば暇がない。とりわけ本作品では、食卓や家族との憩いと残虐無比なテロリズムのシーンの対比が目立つ。国家に殉じる暗殺者の、人間としてのルーツを描く作品になっている。
そして何より、娯楽映画として観ていて飽きさせない名匠の至芸という風情がある。異国情緒、サスペンス、ロマンスを贅沢に配置しつつ、思い切った省略が功を奏し、サクサク進む展開が気持ちいい。省くべきは省き、見せるべきシーンには時間を割く構成が長尺(163分)の作品を成功させている要因であるように思う。
これはマイフェイバリットな作品に加わった。スピルバーグ作品では現在首位かも。