2015年9月23日水曜日

ジョジョの奇妙な冒険 Part 2 戦闘潮流


 第二部。
 猪突猛進な激情型の第一部の主人公とは打って変わり、軽薄でお調子者のジョナサンの孫ジョセフ・ジョースターが主人公。ニューヨーク、メキシコ、ヴェネツィア、スイスを巡り、波紋を駆使しながら、現代に甦った古代の超人達と戦う。

 絵が第一部の頃と比べ格段に読みやすいのが好印象。笑いの要素も以前より増え、濃厚なストーリー展開のいい箸休めになる。シーザー・ツェペリ、シュトロハイム少佐、リサリサなど登場人物の造形もいい。

 内容は古き良きジャンプ黄金時代の王道を行く。武士道と仁と騎士道のエッセンスを過剰な表現に織り交ぜながら人間讃歌をしている。グロいしくどいし悲惨だが、後味は良く楽しく読めるという奇跡的配合。80年代の少年読者は贅沢だ。

 いい感じに盛り上がってきて、第三部に突入。
   

2015年9月21日月曜日

ジョジョの奇妙な冒険 Part 1 ファントム ブラッド


 実はちゃんとジョジョを通読したことがなかったので読み始めた。

 少年誌における理想の男性像の変遷、というのがまずは頭に浮かんだ。ジョナサン・ジョースターのような195cmの筋骨隆々の体躯、勇気と知性を持ち、熱い心を持つが根は優しい、みたいなのが1986年当時の少年達のヒーローだったと窺い知れる。北斗の拳あたりもそう。昨今のジャンプに登場する細身、細面の男達とは対照的である。

 第1部は2000年代のインターネット上ではもはや必須の古典的教養であり、抑えておきたいシーンは多い。ズキュウウゥンというディオの接吻、「さすがディオ!おれたちにできない事を平然とやってのける そこにシビれる!あこがれるゥ!」、「君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ!」あたり。説明くさい台詞が多く、情熱や感傷の描写が過剰でもあり、作者の意図通りに感情移入ができないことが多かったが、それはそれで様式美として楽しめる。

 東北人の作者が書いた英国貴族の騎士道の物語、であるという事実が、その後独自に発展していくジョジョ文化の主要な因子であったというのが本ブログ筆者の見解である。

 とりあえず、第一部で重要なのはスピードワゴンとツェペリさん。
   

旅のラゴス


 一人の男が異世界を旅する様子が淡々と綴られる話。

 筆者が最初に感じたのは、ドラクエやFFのようなゲームで親しんだ世界観の原型という感じ。1986年に発行された話だが、当時スクエアやエニックスに居たゲーム制作者達へ多大なインスピレーションを与えたのかと勝手に想像。スカシウマやミドリウシという架空の動物、読心や集団転移という特殊能力、知性と良識を備えた落ち着き払った主人公などの舞台装置や、場面の描写やストーリー展開から、初期の日本のRPG特有のあの空気が作中にプンプン香る。

 読んで何を得られるというわけじゃないが、異世界の冒険気分をサクッと味わえる。そこそこに期待して読んでもそれなりに応えてくれる。大御所・筒井康隆の作品を読んだのは初めてだったが、評判も納得の高品質。

 誰が読んでもそれなりに面白いファンタジー、って感じ
   

2015年9月19日土曜日

音楽


 精神分析医の手記という形式で描かれた女性の不感症の話。
 「音楽」は女性の性的絶頂(オルガスムス)の隠喩的な表現。

 1964年に婦人公論誌上で連載されていた小説で、当時隆盛を誇っていた精神分析による精神科治療の空気が伝ってくる。主人公の分析医の口ぶりは断定的だが、理論は科学でもなんでもなく、限りなくオカルトな信仰に近い。解説によると三島由紀夫も若い頃は精神分析に傾倒していたが晩年は批判的だったようで、小説の題材として利用しているが距離感は保てている印象。「近親相姦の願望」「去勢コンプレックス」「言い間違いと無意識」など、フロイト的観念の引用は模範的だが、それ以上の作者オリジナルの深みは付与させていない。

 性愛が主題だが、描写に圧倒的な官能があるわけでもない。
 精神分析の空気が味わえるサスペンス小説といった所。
   

2015年9月17日木曜日

パニック・裸の王様


 学生時代に古本屋で購入し、5年ほど本棚で寝かせていた開高健の短編集。読んでみたらすごくよかった。短編4つ入り。

 『パニック』
 野ネズミが大量発生するパニックムービーな話。カミュの『ペスト』を彷彿とさせる、人間の制御を越えた巨大なエネルギーを持つ自然の猛威、見えない敵と人間達の戦い。主人公の達観と遊び心が『ペスト』とは異なる。

 『巨人と玩具』
 キャラメルを売る大企業の広告戦争。資本主義の暴力的な力動とマスメディアの狂奔に圧殺される個人。1960年頃の高度経済成長期にはホット・トピックだったのか。

 『裸の王様』
 画塾を経営する男のもとに連れてこられた少年の人間性の回復の話。形骸化した教育による人間性の疎外と、内的で根源的な生命力の救済。男はまんま開高健。修辞のキレはさすがだが、プロットも秀逸。芥川賞受賞作。

 『流亡紀』
 秦の始皇帝の時代の空気を、名もなき衆生の視点から活写。理不尽な暴力に弄ばれ、人間性を奪われ、命じられがまま為す術もなく転進を余儀なくされる個人。時代と社会の圧倒的な暴力による人間性の疎外、それに対する作者なりの処方箋が最後に示される。『GO』で杉原に親友(ジョンイル)が薦めてたのには訳がある。

 読後数日して思い返し、読んでて一番楽しかったのは『裸の王様』、一番好きなのは『流亡記』。今年のベスト候補。小説って面白いな、と思った。
   

2015年9月14日月曜日

クリムゾン・キングの宮殿


 自由な実験音楽。
 1969年発売のプログレ・ロックの草分け的存在として名高い名盤。

 1曲目はZAZEN BOYSっぽいギターのカッティング・リフ(あまり知らんが)など織り交ぜた、どこに着地するか分からない衝動のうねり。その後も続く、喧噪と静寂の躁鬱なコントラスト。ラストの5曲目はRPGのラストダンジョンっぽい。

 メンバーを見て「イアン・マクドナルドってSF作家の?」と思ったが別の人だった。あとバンド名とアルバムタイトルが分かりづらい。King CrimsonというバンドのIn The Court Of The Crimson Kingというアルバムである。なぜ順番が逆になるのか。

 2015年に初めて聴いても響いた。インスピレーションに富んでいて楽しい   
   

2015年9月9日水曜日

失踪日記


 西田藍のTwitter見てて思い出したので、久しぶりに再読。

 不条理SF漫画の大家である吾妻ひでお氏が、実際に失踪し、ホームレス生活を送っていた日々を漫画化した話。住み込みの配管工として働く日々を経て、後半はアルコール依存症の治療の話。

 絵柄には愛嬌があり、話もほんわかしたムードが漂うが、底にはハードコアな狂気を感じさせる。路地裏のゴミ箱を漁り、雑木林で雨露に濡れて眠る。人間ってこんなにタフな生き物なのか、と静かな感動すら覚える。

 圧倒的に読みやすく、常人にはおよそ経験し得ない生活を追体験できる名著である。
 生きるのに疲れている人にお勧め。悩みが割とどうでもよくなると思う。
   

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