2015年9月17日木曜日

パニック・裸の王様


 学生時代に古本屋で購入し、5年ほど本棚で寝かせていた開高健の短編集。読んでみたらすごくよかった。短編4つ入り。

 『パニック』
 野ネズミが大量発生するパニックムービーな話。カミュの『ペスト』を彷彿とさせる、人間の制御を越えた巨大なエネルギーを持つ自然の猛威、見えない敵と人間達の戦い。主人公の達観と遊び心が『ペスト』とは異なる。

 『巨人と玩具』
 キャラメルを売る大企業の広告戦争。資本主義の暴力的な力動とマスメディアの狂奔に圧殺される個人。1960年頃の高度経済成長期にはホット・トピックだったのか。

 『裸の王様』
 画塾を経営する男のもとに連れてこられた少年の人間性の回復の話。形骸化した教育による人間性の疎外と、内的で根源的な生命力の救済。男はまんま開高健。修辞のキレはさすがだが、プロットも秀逸。芥川賞受賞作。

 『流亡紀』
 秦の始皇帝の時代の空気を、名もなき衆生の視点から活写。理不尽な暴力に弄ばれ、人間性を奪われ、命じられがまま為す術もなく転進を余儀なくされる個人。時代と社会の圧倒的な暴力による人間性の疎外、それに対する作者なりの処方箋が最後に示される。『GO』で杉原に親友(ジョンイル)が薦めてたのには訳がある。

 読後数日して思い返し、読んでて一番楽しかったのは『裸の王様』、一番好きなのは『流亡記』。今年のベスト候補。小説って面白いな、と思った。
   

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