音楽
精神分析医の手記という形式で描かれた女性の不感症の話。
「音楽」は女性の性的絶頂(オルガスムス)の隠喩的な表現。
1964年に婦人公論誌上で連載されていた小説で、当時隆盛を誇っていた精神分析による精神科治療の空気が伝ってくる。主人公の分析医の口ぶりは断定的だが、理論は科学でもなんでもなく、限りなくオカルトな信仰に近い。解説によると三島由紀夫も若い頃は精神分析に傾倒していたが晩年は批判的だったようで、小説の題材として利用しているが距離感は保てている印象。「近親相姦の願望」「去勢コンプレックス」「言い間違いと無意識」など、フロイト的観念の引用は模範的だが、それ以上の作者オリジナルの深みは付与させていない。
性愛が主題だが、描写に圧倒的な官能があるわけでもない。
精神分析の空気が味わえるサスペンス小説といった所。
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