早逝したSF作家、伊藤計劃(いとうけいかく)の2007年作品。
5年ぶりくらいに再読。
舞台は世界中で内戦と虐殺が起こる9.11以降の世界。アメリカの特殊部隊隊員として世界各地で転戦する主人公の男の一人称で物語が進む。作中で繰り返し語られるテーマは、人間の意識とは何か、死とは何か、良心とは何か。レトリックと医療技術で己の感覚を麻痺させ、指令のために人を殺し続ける主人公の葛藤の遍歴が描かれる。
多くの評論家や作家に激賞されている通り、2017年現在の時点で、テクノロジーと哲学的思弁が出会うSF小説という枠組みでの創作で最高峰のクオリティであろう。該博な知識と繊細な筆致で描かれる、地獄のような世界を非人間的な技術で生き抜く男の軌跡。エスキモーの言語の話、レミングの集団自殺の話、進化論に関する議論。そうした20世紀の学者やマスメディアやが生み出した幻想と現実との相違もテーマにある。
「どうやったらこんな物語が書けるんだろう」と考えながら読んでいた。言語マニアであり、映画マニアであり、軍事マニアであり、情報技術マニアである作者が、物語という形式への愛を込めて編んだのがよくわかる。自身の死を意識しながら。途方もないレベルで。果てしない思弁。切実な問いかけ。それを、物語という形式で。
久しぶりに読んで、ずっと楽しかった。
アニメ映画も公開中だが、やはり活字で読むのが至高だろう。