藤子不二雄のAの方の我孫子さんの短編集。
後の『笑うせぇるすまん』の原型になる読み切り『黒イせぇるすまん』やナチスの恐怖を戯画化した『ヒトラー伯父さん』などダークな話多し。マカオやタヒチへの旅行記も所収。世の中にはいじめる人間といじめられる人間がいて、いじめられ続けた側の鬱屈してねじれた黒い感情が結晶化されたような作品が続く。
どの話も厭な人や狂人ばっかり出てくる。登場人物の顔は少ない線で書かれているのに、狡猾さや卑屈さなど活き活きとその性質が伝わる。
人の世を生きていくための免疫をつける毒とか、そういう効用がある。
若き高倉健主演の代表作。極寒の網走刑務所での脱出劇。
昭和40年頃の無法者の空気が伝わる。
感想は大きく二つ。
北海道の寒さを過小評価してないか。
ワンピースのウォーターセブン編で手錠でペアになる話の元ネタはこれか。
独りクリスマスイブに観ていたが、なかなかオツなもんだった。
雪原のトロッコのシーンが良いね。
イギリス、クリスマスが舞台の19人の群像劇。
様々な人間関係の中で愛が語られる。
ドラッグ中毒からの復活をかけたロックスター、片思い、首相とその秘書、妻を失った男とその連れ子、ポルノ俳優、性交へ情熱を燃やす童貞、社内での不倫、外国人への恋慕・・・etc.
難しいことを考えず、観ると温かい気持ちになれる。
特にひねりもなく普通にいい映画。婦女子に人気なのも納得。
小学校低学年の頃から何十回と観た作品。
最初はテレビの金曜ロードショーあたりでやっていたのをVHSのビデオテープに録画したのを何度も見返したはずだ。映画を観に行ったり、レンタルビデオ屋に行く習慣がなかった我が家にあった数少ない映像作品の選択肢の一つだった。利発な少年ケビンが家に仕掛けた罠で強盗を撃退するシーンでは、何度となく兄妹そろって笑い転げた。
大人になって見返すと、物語の構造が昔よりよく分かる。家に子供を一人置いてきてしまった母親の胸の張り裂けそうな悲しみや不安も。父親はちょっと呑気すぎだ。
小学生が観たって夢中になって楽しい。大人が観るとじわりと来るハートフルコメディ。家族皆で楽しめるクリスマス映画。こういうの本当減ったな。景気が悪いのはこういう作品が少ないせいだ。と、そんなことを思った。
個人的に贔屓にしているデイヴィッド・フィンチャー監督の新作の評判がいいと聞いたので、情報を全く仕入れずに勢いで劇場に行って観てきた。妻がある日失踪し、嫌疑をかけられる男の話。
相変わらずなフィンチャー節の抑えた色調、控えめなBGM、静かながら不穏でダークなムード。その根底にあるのはグロテスクでdisgusting(生理的嫌悪感を催す)なブラック・ユーモア。煽動される愚昧な大衆への舐めきった視線も健在。この監督は現代を生きる愚者とお人好しに厳しい。
情報が小出しにされ、観てる側も登場人物への見方がグルグルと転換する感覚を味わえる。嫌悪と恐怖をかきたてる強烈な毒気が表現されるが、その容赦なさ故に際立つささやかな癒しがある。
辛辣な風刺の効いた夫婦の性愛の話であり、ひねくれた大人のための娯楽作品。
ベトナム戦争の帰還兵が警察や軍隊相手に暴れる話。
「別にランボー悪いことしてなくね?」という疑問が序盤に浮かび、孤軍奮闘ながら八面六臂の活躍をする後半も個人的にはかなり笑える方向に面白かった。田舎の保安官の因果応報っぷりやシルベスター・スタローンの鈍牛のような顔つき(失礼)とシリアスな展開の対比が私のシュールな笑いの琴線に絶妙に呼応してしまった。
ベトナム帰還兵の神経症を描く作品ならスコセッシ×デニーロのタクシードライバーの方が格上。
こちらは教養や娯楽の要素が強い。
こちらは1990年のアカデミー作品賞。
後の2004年に再度共演するクリント・イーストウッド&モーガン・フリーマンが出演する西部劇。名優二人の滲み出る大物オーラは当時から健在。
過去の西部劇作品への風刺など、批評家が絶賛しそうなこだわりが満載らしいが、一般大衆向けの娯楽作品として面白いかは微妙。教養として観るのはいいが、それ以外の用途では個人的にあまりお勧めしない。
童貞の隠喩であるいきがった若造が印象的。雄にとっての殺しと性交はしばしばアナロジーが成立するな、と最近バキを読んでいた筆者は思った。悪い男に皆が憧れるのは必然なのである。
人生に傷ついた大人たちが戦う話。
経営が苦しいボクシングジムを経営する無骨な名トレーナー(クリント・イーストウッド、兼監督)、タイトルマッチの試合で失明し虚しく余生を生きる老ボクサー(モーガン・フリーマン)の元に突如現れた30代の女性(ヒラリー・スワンク)がジムでの指導を志願する。周囲の反対を振り切り、貪欲にトレーニングをこなす主人公のひたむきな姿に感化され、傷つき疲れた老兵のような男達が笑顔を取り戻し、、、という筋。
余計な説明や描写がなく、言葉よりも間と行動に語らせる。人生に輝きを与える栄光と、陰を落とす喪失や不遇が淡々と、容赦なく、現れる。そんな中で、どのような生き方を選ぶか。クリント・イーストウッド映画に通底する、理不尽な世に生きる個人の態度(attitude)という主題が、言葉少なながら雄弁に語られる。
観ると魂に深みが出るように思う。アカデミー作品賞も納得のいい映画。
イギリスの諜報員007シリーズ第21弾。第6代目ジェームズ・ボンドはダニエル・クレイグ。ヒロインのボンドガールはエヴァ・グリーン。シリーズ初の映像化作品の50年ぶりのリメイクで、ボンドの設定を以前と大幅に変更したということでシリーズの大きな転換点となった作品(らしい)。
アフリカでテロ組織相手に大立ち回りをする前半。後半はカジノでの頭脳戦など。ロマンス、アクション、智略戦を楽しめる娯楽作品。
あまり深みとかはない。あと、メインテーマがなんか垢抜けない。
エヴァ・グリーンの佇む美しさは文句なしに素晴らしい。
今のところ自分の中のシリーズ1位は『ロシアから愛をこめて』である。
ティム・バートン監督のホラー風味でコメディタッチなクレイアニメの映画。ハロウィンの世界の住人がクリスマスを演出しようとするのが筋。
筆者はワンピースのスリラーバーク篇の元ネタっていうことで知った。インスピレーションに富んだ傑作だとは思うが、アメリカンな大味のテイスト満載なあたり個人的にはあまり趣味ではない。
とは言え、雰囲気がやはりいい感じ。
若い女性や子供、そして多くのクリエイターに受ける理由はよく分かる。
いっぺん観とくといい映画。
大森望編、海外作家の時間SFの短編小説のオムニバス。1950年代の古典から2000年以降の新作まで全13編を収録。世界的にはSFといえば宇宙開発ものが王道であるが、時間SFが花形であるというのは日本特有の現象らしい。職場の昼休みに1編ずつ読むのにいい感じだった。お気に入りは下記。
商人と錬金術師の門(テッド・チャン)
アラビアンナイトの世界観で綴られる中編。この話が読みたくて買った本だったが、期待に違わぬ完成度。くぐると未来や過去に行ける門の話で、成功、過ち、性愛、成熟を重層的な作りで味わわせてくれる。傑作。
彼らの人生の最愛の時(イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア)
ベンジャミンバトン的に時間を逆行する男女の邂逅。マックドナルドというチープな舞台装置など、馬鹿馬鹿しくて楽しい。
しばし天の祝福より遠ざかり・・・(ソムトウ・スチャリトクル)
同じ1日が何度もループする話。ループ時間中に行動選択の余地はないが、ループ前に約2時間の自由時間がある。クロスチャンネルやシュタインズゲート的な孤独な戦い。
ここがウィネトカなら、きみはジュディ(F・M・バズビイ)
カート・ヴォネガットのスローターハウス5的な「痙攣的時間旅行者」の男女のロマンス。不思議で、甘く、切ない。