惑星を覆う海のような生き物がヒトに干渉して幻覚を見せ、基地隊員の皆が混乱する話。
SF小説のオールタイムベストに選ばれるほどの作品だが、いかんせん難しくて読者を選ぶ。訳者である沼野充義の解説にある通り、主題は人間以外の知的生命体とのコンタクトであり、人間形態主義(anthropomorphism)へのアンチテーゼである。つまり「宇宙人はヒトの想像を越えた形や行動様式を持っている可能性があって、コミュニケーションをとるのは難しいかもね」という、偏屈で聡明な20世紀SF界の巨人スタニスワフ・レムの宇宙進出を始めた人類への警句が込められている(初出は1961年、ロシアの人工衛星スプートニク打ち上げ成功は1957年)。
初読で理解できるかどうかは別として「これぞSFだ」というエッセンスが詰まっている。作中で繰り広げられるソラリス学の衒学的な議論から、主人公ケルヴィンとハリーの悲恋の物語まで、知的刺激と人文学的な感傷を味わえる。
タルコフスキーとソダーバーグの監督で2回映画化されているが、レムはどちらも「全然分かってない」といって不満を爆発させている。安易な単純化を許さない知的営為としてのSF。内容は複雑で難解だが、理解しようとし続けることで成熟した人間観や世界観を得ることができる。そういう作品…だと思う。