2015年11月10日火曜日

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき


 人間の悪はいかにして生まれるか、を徹底的に考察した大著。

 スタンフォード監獄実験で有名になった心理学の教授が、自身が行った監獄実験で得た知見を敷衍し、膨大な研究報告や人文学的な資料を参照しながら、「どこにでもいる普通の人」をいじめ、テロ、虐殺、拷問などの残虐行為に駆り立てる共通の因子を解き明かしていく。後半では実際に起きた軍事スキャンダルである、イラクのアブグレイブ刑務所での米兵による捕虜虐待について検証を進める。

 結論を言ってしまえば、人間の悪性を引き出す要素は、行為者の没個性化、攻撃対象の非人間化、傍観者の黙認、に還元できる。ヒトは時代や場所を越えて、普遍的に向社会性をもつ生き物であり、「集団に打ち解けたいという欲求」に駆られ行動し、「いくらやってもおとがめを受けない」と分かったとき、攻撃性や残虐さが増幅する。

 匿名性とレッテル貼り。耳触りのいい言葉の置き換えによる行為の正当化。学校や職場でのいじめや人種差別、近年のマスメディアやネット住民による特定の相手への集団リンチのような個人攻撃はこの原理によるものだということが容易に分かる。誰かを皆で攻撃することで一体感を得られる状況、いくらやっても自分の評判を傷つけることがない状況になると、人は残酷になるのだ。

 この本の主張の特筆すべき点は、個人の特性にかかわらず、取り巻く状況とシステムが被影響者の残虐さを引き出すということ。人の善性や悪辣さは状況に左右されるものであり、つまりは「いい人も悪い人もないっていう理論」(REM)なのだ。近所や職場で評判の良き家庭人さえ、状況が変われば無慈悲な虐殺者に変貌する、ということが人類の歴史では繰り返されてきた。同じ状況に置かれたら、誰だって加害者になりうる、という警鐘を鳴らそうというのが作者の意図である。

 そして、個人を変容させる巨大な力に立ち向かう方法にも本書では触れている。その内容は、、、このブログで目指すものに近いと思った。自分の好悪の感覚を研ぎ澄ませ、心を言葉で表現し、自らの名の下に表明し、共鳴する仲間を見つける、というものである。自分がいいと思ったらいいと言う。イケてないと思ったらイケてないと言う。言いづらい雰囲気の時こそはっきり言う。その勇気があれば、集団力動が生み出す悲劇を防ぐことができる。

 主張は明快で、しっかりと腑に落ちる良著だった。
 世界平和の実現のためにこのブログも続けねばなるまい、と思った。
     

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