「あいつの場合に限って 常に最悪のケースを想定しろ
奴は必ずその少し斜め上を行く!!」
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筆者が中学生の頃に出逢い感銘を受けた漫画だが、今読んでも最高だった。
宇宙一の頭脳とひねくれきった性格を持つドグラ星の王子が地球を訪れ、彼の退屈しのぎに周囲の人々が巻き込まれ、騒動が起きる。異星人との交流というSF的な舞台装置を使いつつ、ミステリ要素の強い会話劇がメインで、基本的には1話完結のショートショートな形式。
何がいいって、やはり富樫節ともいえる登場人物の掛け合い。チンピラな雪隆、苦労人の護衛隊長のクラフト、悪ガキなのに分別があるカラーレンジャーの小学生らと、他人を玩具にして愉しむ外道である王子との熾烈な応酬が楽しい。もはやネットで定型句となっている「予想の斜め上をいく」というフレーズの元ネタなど、会話中で入り乱れるキレのある言葉のチョイスがひたすら心地よいのである。
作者30歳の時の作品らしいが、王子は作者の理想像を具象化したオルター・エゴなんだろう(『ファイトクラブ』のタイラー・ダーデンのような)。筆者が今読み返して感じたのは、王子の圧倒的な悪ふざけの底には、諦観ともいえる、ある種の達観した生物観や宇宙観があるのではないかということ。形骸化した道徳や、硬直化したシステムが生む閉塞感、矛盾と対立に満ちた現実の諸問題を解決するために、道化に徹するあのスタイルに辿り着いたのではないか。作者の意図があったにせよそうでないにせよ、作者は直感的に、真実を炙り出すための道化の必要性を感じているように思う。観る者の認識を引きずり回す悪ふざけと風狂は欺瞞の仮面を剥ぐ。最近サンデーとチャンピオンの少年漫画を読んでて足りなく思ったのがこの要素。表層的な理想だけじゃ足りないのだ。強い知性をもつ人道主義者は、しばしば偽悪や道化に至る。封神演技の太公望のように。
笑いと問題提起に満ち、読んでいて楽しい。皮肉が利いていて、底には深い愛がある。大人の知的娯楽の一つの完成形に思える。プロットが練られ過ぎていて初読で理解が困難でも、読み返す程に味が出る。筆者はこの作品の面白さが分からない人とは友達になれない自信がある。
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