第二次世界大戦時のドレスデンの焼夷弾爆撃を経験した作者の半自伝。ただし脳に傷を持ち、自分の人生を自由に時間旅行できる主人公の体験という形式で語られる。
内容は滑稽で悲惨。その一言に尽きる。時系列は細断され、妄想が混ざりつつランダムに配置される構成。不格好で、お人好しで、悪運に恵まれたアメリカ人ビリー=ピルグリムのささやかな幸福と悲哀。その目に映った無慈悲で、不条理な、大量殺戮の記憶。タイトルはナチの捕虜収容所だった屠殺場に由来する。
あまりに強烈な体験を物語にする方法はこのような形以外になかった、と作中で筆者は語る。作中で連呼される"そういうものだ。"(=So it goes)に至るまでに捨象された幾つもの命の息吹。その喪失に際して表出される病的なまでの欠落と冷淡が、一個人には対処不能なほどの凄惨さを物語る。
諦観漂う道化の底には、果てしない思弁と深い慈悲を感じる。
この人の本をもっと読みたいと思った。
カート・ヴォネガットの爺さん。