アメリカ発の精神医学の概念がいかにして他国に浸透し影響を及ぼしたか、という文化汚染に関するノンフィクション。香港の摂食障害、スリランカの津波とPTSD、ザンジバル(アフリカの小島)の統合失調症、日本の抗うつ薬市場の話の4編が主に取り上げられる。
本書に紹介される事例のうち、日本人の身近に影響を及ぼしたのは1995年の阪神大震災後に浸透したPTSDの概念と、バブル崩壊後の1990年代後半以降に爆発的に広がったうつ病の話だろう。英米から押し寄せる狂信的で独善的な専門家(主に精神医学と心理学)とモラルに欠ける商売人(製薬会社)のゴリ押しが伝統的な文化的資源を破壊し、社会を変容させ、その構成員が実験用のモルモットや企業の食いものにされる構図は知れば知るほど醜悪で、読み続けていると腹が立ってくる。
精神科の医師でもある本ブログ筆者の臨床場面における所感として、いつも脳裏をよぎるのは「なんでもかんでも病気にするんじゃねえ!」という不満である。最近だとADHDと発達障害が顕著。「ネットで見たんですけど」といってやってくる若者多数。イーライリリー社あたりの広告でよくみるあれだが、あれは会社が薬を売りたいだけだということを本ブログ筆者には知っておいてほしいものである。宣伝されるほど実社会にいないよね、あれ。
結論として、いきすぎた資本主義経済の利益追求と、傲慢で視野の狭い研究者の名誉欲が、世界中の人々に精神疾患のレッテルを貼りまくっている。「あれ、剥がすの大変なんだっつーの」というのが臨床家としての筆者の日々の心の叫びである。
アレン・フランセス『〈正常〉を救え』と併せて、是非。
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