2019年11月14日木曜日

眠りなき夜


 初期の北方謙三のハードボイルド小説。
 書籍は1982年(昭和57年)発刊。電子書籍Doly版を読。

 主人公は弁護士をしている谷という40代の男。事務所を共に経営していた戸部という男の失踪から物語は始まる。主人公が戸部の身辺を探るうちに、陰謀に巻き込まれ、逃走しながら、事件の背後に潜む巨悪と戦うために友人たちとともに奮戦する…という話である。

 全体に昭和の香りが色濃く、火曜サスペンス劇場のようなシーンが眼前に浮かぶ。世の中が今よりシンプルで、日本の中年男性にもっと住みよい時代だった頃の舞台装置が多数登場する(都合のいい女とか、吸い放題のタバコとか)。そして、暴力と謀略が支配する理不尽な世界で、主人公が男を張る。まさしく一時代を築いたハードボイルドの古典という感がある。

 常識や良識はさておき、今読み通してみて、胸に残るものがあった。イーストウッドの映画にも通じる、理不尽な世界で筋を通す男の話が私は好きなのである。2000年以降の若者にはこの成分が足りない。
   

2019年11月4日月曜日

マンガ「獄中面会物語」


 作者が実在の死刑囚に面会したノンフィクションの漫画版。ホリエモンがメルマガで紹介していたのを見て衝動的に購入。電子書籍Dolyで読。2019年9月出版。

 読んだ動機は怖いもの見たさだろうか。凶悪犯罪を犯した人間のありのままの雰囲気や思考内容を知りたかった。おそらく脚色はさほどなく、言動や所作の細部にリアリティが宿る。本書では7人の死刑判決を受けた犯罪者が登場する。

 境界知能、妄想性障害で実刑をくらうケースが実際には多く、本書にも登場している。精神障害のあるのものは刑法第39条に基づき減刑されるべきではないか、と作者は疑義を呈するが、私としてはこのあたりの「相場」が妥当ではないかと思う。そうしなければ、犯罪者の多くは正常な判断ができなかったゆえに減刑されることになり、世間は納得しないし、世も乱れるだろう。実際には、現場の裁判官や精神鑑定人が空気を読んで、しばしば恣意的な判定をしている印象がある。

 私は精神鑑定に携わったことがあるし、患者に殴られて警察で取り調べを受けたこともあるから実情には比較的詳しい方だと思うが、結局、事件当時の完全な真実なんて分かりようがないと思う。裁判で語られる「事実」には、警察官や法曹関係者の想像したストーリーが多く含まれるのだから。そのような諦めを抱いている私のような人間にとって、本書は価値のあるものである。このような物語の蓄積が、真実を見る目を養うように思える。