2021年2月4日木曜日

アクティベイター


 現代の東京が舞台の冲方丁の長編小説。2021年1月発売。

 東京の羽田空港に、亡命を求める中国国籍のステルス爆撃機が緊急着陸するところから物語が始まる。そして、謎の中国人パイロットから、機には核兵器が積まれていることが告げられ、前代未聞の大規模テロを防ぐための戦いが幕を開ける。元特殊部隊隊員の真杖太一(しんじょうたいち)のアクションがメインのパートと、警視庁の指揮官として会議室で戦う鶴来誉士郎(つるぎよしろう)のパートが交互に進み、事件の全容が次第に明らかになっていく。

 全体としては、大都市におけるテロとの戦いであり、スリルとサスペンスを味わう娯楽小説である。アメリカドラマの24(トウェンティーフォー)感があり、踊る大捜査線ザ・ムービー感もあるが、ベースは冲方流の娯楽活劇である。プロットの構成はシュピーゲルシリーズが近く、小栗旬とか綾野剛とか出てきそうな東京が舞台のクライムサスペンスなので、ライトノベルに抵抗のある層も楽しめるだろう。SF色や時代小説の色も薄く、まさに一般受けしそうな内容である。

 私は約15年ほどの冲方ウォッチャーだが、本作は、冲方丁がこれまでの作品で培ってきた技術を総動員した感がある。テンポ良く進みつつ、展開は緊張と弛緩を繰り返し、プロットは破綻せず収束していく。説明や描写がくどくないので、読んでいてストレスなく楽しめる。国際政治、官僚機構のパワーゲーム、格闘シーンの殺陣、話者の性格や人間同志の関係を表す会話の妙など、いずれも磨き上げられた職人技という感じで、キレのある描写が心地よい。米軍関係者、中国人のヒロイン、韓国やロシアの刺客など、登場人物も魅力的。

 本書は今年のNo.1候補である。家に届いてから読み始めて没頭し、一気に読み終え、幸福だった。こういう王道路線、作者にはもっと書いて欲しい。能力を持て余しがちな彼の創作の、一つの最適解であろう。
   

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