娯楽とは程遠く、気合いと忍耐で読み進める読書体験だった。設定が込み入り、時代背景も19世期ロシアで多くの人には馴染みが薄いので、ノーヒントで読む初心者にはハードルが高い。その上、核心部分は意図的に隠されたまま物語が進行し、ストーリー上の意味が掴めず困惑させられる展開が多かった。キリスト教に関係する示唆に富んでいるらしいが、21世記に生きる日本人が殊更ありがたがるようなものかというと、疑問が残る。
ストーリーは、善良で美しい魂を持つ主人公の公爵ムイシュキン、粗野な成金の男ロゴージン、自暴自棄に生きる美女ナスターシャ、美人三姉妹の末娘アグラーヤの愛憎入り混じる人間模様が主となる。持病の癲癇の治療のためにスイスで療養していたムイシュキンが祖国ロシアに戻るところから物語が始まる。ロシアの社交界を舞台に、悪評高いナスターシャを巡る騒動の中で生じる、互いの精神力動が物語の肝となる。
純粋な人間の登場は最終的に悲劇をもたらす、というようなことがテーマだろうか。美しい心や肉体を持った人間であったムイシュキンやナスターシャが、世俗の欲望と打算に満ちた社会に汚され、壊され、堕ちていく物語であるともいえる。ムイシュキンとロゴージンは人間の善悪の表裏一体として対を為し、ナスターシャは心が壊れた美人、アグラーヤは堕ちていく箱入り娘である。鷹揚で虚言癖のあるイヴォルギン、性格がねじくれた肺病病みのイッポリート、軽薄な小役人レーベジェフなど、脇役はいい味出している感がある。惨めで愛らしい端役たちの人間劇場がドストエフスキー らしい。
読んで何が残っただろうか、と己に問うと、あまり何も残っていない気がする。自分の中で五大長編の順位は、罪と罰>カラマーゾフ>悪霊≒白痴、という感じだ。いつかまた読むと変わるかもしれない。ひとまず、現在読んだ感触としてはイマイチ。根性で読み切ったが、この体験がいつか報われることがあってほしい。
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