2016年6月1日水曜日

ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家



 師匠が推している思想家であり、気になったので読んでみた。

 ロラン・バルトは『言語を愛し恐れつづけた批評家』。1915年生まれのフランス人。1980年交通事故で没。幼少期に父と死別し、母子密着の強い家庭で育ったせいか、父的な権威によって一義的に意味を押し付けられることを嫌う傾向あり。読者として、多様な意味の解釈を選び取りながら作品を楽しむことを推奨している。以下の用語を押さえれば、その思想を把握しやすい。

・エクリチュール
 「作家みずからが責任をもってえらびとる表現形式や言葉づかい」のこと。人は言語や文体を選べないが、エクリチュールは選ぶことができる。人は「俺はあのクソ野郎が話すのを見ると虫酸が走るぜ」と言うか「私は彼が話している姿を見ると不愉快な気持ちになる」と言うかを選ぶことができる、ということだと思う。

・作者の死
 作品は作者と切り離して考えるべきだ、という主張。ゴッホの絵を見てゴッホの狂気に想いを馳せるのではなく、その絵の表現する意味の多様性を考えるべきだということ。村上春樹作品を読んで、読者がそれぞれ好き勝手な解釈をする感じか。

・断章形式
 彼は表現に対し順序だてて一義的なストーリーを組み立てられるのが嫌いらしく、著書の章立てもテーマの題をアルファベット順にしたりする。「空虚な中心」に断章を散りばめていく形式が好きらしい。

 こういう思想を知っておくと、村上春樹作品、レディオヘッドの歌詞、ゴダールの映画などに立ち向かえるような気がしてくる。立川談志の「イリュージョン」もこれだな。言葉を突き詰めて考えると、だいたいこういうシュールで不条理な地点に辿り着くのか。言語表現の限界が見えるせいかもしれない。

 本書はそんな思想家の生涯を辿りながらその思想の源流と変遷を追う新書。読むとなんとなく彼の気持ちが分かる。逃げ腰で、言語マニアで、芸術好きなのだ。たぶん。
     

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