大正時代の白樺派、武者小路実篤の掌編2つ。
『友情』
主人公の野島はキモいな、と思いながら読んでいたが、ラストで「大宮がやってくれた!」と野島の親友に対し心の中で快哉を叫んだ。なので読後感は良好。終盤の杉子(野島が惚れた女)の心情の描写がリアル。女ってこんなもんだよね、とすっきり腑に落ちる。夏目漱石『こころ』の進化版。ただし『こころ』の方が美しい。
『初恋』
なんかもう、単純にキモい。作者の半自伝的な初恋の話らしい。ただ、そうした生理的嫌悪感は、かつて筆者自身が持っていた未成熟な理想像と重なるからでもあると思う。陰気で不器用な男が抱くファンタジーというか。誠実、道徳、人道、そういう幻想を拵えなければ自尊感情が保てないモテない男の心の仕組みが、自身の体験を通して透けて見えるというか。
2編を通して、作者の育ちの良さゆえと思われるなんともいえない浅薄さが気になる。坂口安吾が嫌う路線だろう。モテない男が抱く純愛へのファンタジーというのは時代を超える。そして、あんまり美しいものじゃないと思う。
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