2020年3月21日土曜日

コンテイジョン


 パンデミック映画その2。
 スティーブン・ソダーバーグ監督の2011年の作品。
 アマゾンプライムのレンタルで視聴。

 スター俳優が多数登場するキャストの豪華さに目を奪われるが、実際に中国初の新型コロナウルス(SARS-CoV-2)が世界中で流行している2020年3月の段階で見ると、パンデミックが起きた世界の描写の正確さに驚く。本作では香港で始まった呼吸器系の新興感染症が世界中に伝播し、大勢の人間を死に至らしめ、社会が混乱する様子が描かれる。

 医療崩壊、都市の閉鎖(ロックダウン)、物資の不足と暴動、ブロガーによる煽動など、最近起きている現実と比較して全く違和感がなく、2020年の世界を予言しているかのようである。勿論、細部に違いはあるが、リンクする部分があまりに多く、製作陣の仕事の質の高さが窺える。

 映画の構成は、アメリカのCDC(国家的な感染症対策センター)の職員、感染者の家族、ワクチン開発者など、並行的にいくつもの人物の視点が描かれる群像劇である。テンポがいいのか、演出がいいのか、全く飽きが来ずに最後まで見ることができた。いい役者が多く、音楽もクール。ソダーバーグ節ともいえる、抑制の効いた淡々とした展開が観ていてストレスを感じさせない。

 現実は映画を超えそうな様相であるが、今このタイミングでぜひ観るべきエンターテイメント作品だと思う。
  

2020年3月7日土曜日

28日後...


 世界的にコロナウィルスが流行っており、自分たちが生き延びるために何らかの示唆を得ようとして観た映画。2002年のイギリス映画。監督はトレインスポッティングのダニー・ボイル。

 妻曰く、ゾンビ映画とは感染症の映画であるという。この映画もまた、血液を介して感染し、人が正気を失い攻撃的になるウイルスが蔓延した世界の話である。人気の米ドラマ『ウォーキング・デッド』に通じるものがあるよう。いわゆる「ゾンビもの」として分類されることに異論の余地はないだろう。

 タイトルは感染症の発生から28日後の世界の意味である。病院で目覚めた男が人を探して外へ出ると、すでにロンドン市街は荒れ果てており…という話である。凶暴な狂者と化した人々の襲撃から逃れ、生き残った人たちとともに生きる道を探す。

 進むにつれ、御都合主義なお約束感のあるストーリー展開が気になるが、それは、ある意味、安心して観られる娯楽映画ともいえる。深い意味は見出せないが、これはこれで役割を果たしていて秀逸だという気もする。同監督の中では『ザ・ビーチ』よりは面白く、『127時間』と張るくらい。

 教訓はなんだろうか。ビタミンは貴重。車は大事。煮詰まれば正常な人さえも狂気を帯びてくる…というところか。まあ、時間つぶしに役立つ娯楽映画でしょう。
   

2020年3月6日金曜日

Birthday 君と重ねたモノローグ

 
 ミスチルの新曲。映画『ドラえもん のび太と新恐竜』のダブル主題歌。

Birthday
 2020年代最初のリリースであり、次なる方向性に対するバンドの決意を感じさせる一曲。『youthful days』と『優しい歌』を混ぜたようなエッセンス。焦燥感を掻き立てるバスドラムはビリー・アイリッシュ風。歌詞はもはや、細かいことはどうでもいい感じ。ロンドンでレコーディングしたらしい。甘酸っぱさを含みつつ、高揚感を感じながらじっくり浸れる。さすがの新境地。

君と重ねたモノローグ
 どこかで聴いたことがあるような、昔のアルバムやB面に入っていたような雰囲気のバラード。ラストのプログレっぽい遊び心が楽しい。長らくバンドとして育んできたものが、『ヒカリノアトリエで〜』のツアーなんかを経て結実した感。ハイテンポなBirhdayとの対比が美しい。


 両曲ともに、ドラえもん50周年映画の主題歌であり、桜井和寿が50歳になる年の歌であることにも注目したい。僕は僕でしかない、いくつになっても、変われなくて、と歌う桜井の芯の部分は全く変わらないし、バンドは着実に進化し続けている。息が長く、愛され続けるのも必然。何度でも繰り返してほしい。ドラえもん共々。
   

2020年2月29日土曜日

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド


 2019年、最も観たかった映画の一つ。こちらもアマゾンプライムで視聴。

 1969年に実際にあったマンソンファミリー襲撃事件がモデルで、本作はそのパラレルワールドの物語である。レオナルド・ディカプリオは落ちぶれつつあるハリウッドスターを演じ、ブラッド・ピットがその旧友にして付き人の陽の目を浴びないスタントマンとして登場。名物の無駄な長話はないが、随所に監督クエンティン・タランティーノ節ともいえる癖のあるシーンがある。

 特筆すべきは、1970年頃のアメリカの空気の再現度。冗長なカット割りや展開も、当時の空気感の再現に一役買っている。映画業界のトリビアが多数反映されているらしく、そのあたりが映画評論の玄人受けする理由なんだろう。映画に詳しい人ほどに、多くを語りたくなるであろう映画であるとは思う。

 ただ、一般受けするかは微妙。単なる娯楽を求める層には受けがイマイチな気がする。私も途中微妙だと思ったが、最後まで観たら背景を調べて、また観たいと思った。そんな映画だ。くたびれたおっさんの友情にはグッときた。
   

2020年2月24日月曜日

ジョーカー


 アカデミー賞で話題の2019年作品。
 アマゾンプライムでレンタルできたため鑑賞。

 基本は、いわゆる「無敵の人」の話だった。40代、貧困層、独身、心身に異常をきたした母親を介護し、自身も精神を病み、社会福祉サービスを必要としている。アメリカの格差社会の下層。何も失う者のない男の話。悲惨な現実を直視せず、空想で己を慰めて生きている。アカデミー作品賞を受賞した『パラサイト』もそうらしいが、世界中で格差社会がトピックのようである。

 主人公(ジョーカー)を演じるホアキン・フェニックスの演技は圧巻だが、何より全体に構成の妙が光る。どこまでが空想で、どこまでが現実なのかの境目が曖昧で、それを考えるのが、鑑賞後の楽しみにもなる。確認のために何度も観たくなる作品だろう。抑えの利いた色調や音楽も、絶望に覆われた町の空気感に見事にマッチしている。

 美術、テーマ、演技等の総合力が高い大人の娯楽映画だろう。観てよかった。
     

2020年1月26日日曜日

スノーデン独白 消せない記録


 元CIA職員でアメリカ政府の大規模監視を告発したエドワード・スノーデンの独白。原著は2019年9月。日本語訳は2019年11月発売。

 2013年にアメリカ政府の大規模監視をジャーナリストに告発した彼は、何を見て、何を考え、その行動に至ったのか。本人の回顧録という形式で、幼少期からのその軌跡を辿ることができる一次資料になっている。文体に表れるスノーデンの素のキャラクターは、ユーモラスで賢いアメリカ白人の王道を行くようなタイプで、リベラルで反体制なハッカー気質の矜持を感じる。

 2020年現在、世界中の人がスマートフォンなどのデジタルデヴァイスを持ち、役所や病院、一般企業などで個人情報が管理される時代。インターネット黎明期の1990年代からどっぷりとコンピューターの世界に浸かってきた彼は、情報管理システム構築の実務にも携わり、その仕組みが内包する恐ろしさを熟知している。アメリカの監視も不快感を催すが、中国共産党が顔認証のカメラやウェブ履歴の永久保存で行う情報管理も脅威だ。国家権力によるオンラインでの監視/管理と個人の自由の問題は、2020年代も引き続きメイントピックになるのは間違いない。

 今読む価値がある本だし、今後、ITと個人情報保護の相克を語る上では欠かせない古典となるだろう。大量監視社会の到来を恐れ、憂いている多くの人にお奨めする。
   

2020年1月24日金曜日

セブン


 デイヴィッド・フィンチャー監督の出世作。1995年作品。
 10年ぶりくらいに再視聴。

 陰鬱で湿気った、気の滅入るような都会が舞台のサイコホラーである。引退間近の老刑事(モーガン・フリーマン)と、血の気の多い新入り刑事(ブラッド・ピット)が、聖書の7つの大罪になぞらえて起こされる猟奇犯罪に挑む。

 こういう猟奇犯罪ものは、90年代の流行の影響が見て取れる。ただし、安っぽい精神分析学的な心理面の深掘りをしないところに好感が持てる。過剰な説明をしないあたり、美学を感じる。トーンを抑えた色彩、低音のBGM、優しさのないひねくれた展開がデイヴィッド・フィンチャー節。2018年発売の日本語版DVDでは製作者コメンタリーも充実していて楽しい。

 登場人物に容赦のない、過酷な展開が有名な作品だが、観終わったあとに誰かと感想を話し合いたくなるのは必至だろう。なぜこのような結末を選んだのか、犯人の動機の底にあるものはなんなのか、この作品は何を表象しているのか、そういうことをきっと話したくなる。人の感性に深みを与える、ダークなエンターテイメントの傑作である。
  

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