2018年4月30日月曜日

ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド


 iTunesストアで100円セールをやっていたため、何とはなしにレンタルして観たが、思いのほかよくて見入ってしまった。レゲエミュージックの祖、ボブ•マーリーの伝記映画。2012年作品。

 ボブ・マーリーはジャマイカの山村の出身。白人と黒人との混血であるために幼少期から迫害を受け、音楽に救いを見出して育った。10代後半でジャマイカの首都キングストンの貧困層の集落(トレンチタウン)に移り、仲間たちと音楽活動に取り組んだ。やがて、新たな音楽のスタイルであるレゲエを生み出し、世界に向けてメッセージを放ち、熱狂を与えた。そして、世界中をツアーで巡っていた人気絶頂のさなかに悪性腫瘍のために36歳の若さで早逝したことで、その存在は伝説となった。

 彼が信奉したラスタの思想は土着の宗教にしばしば見られる非論理的で神秘主義的な匂いが強いが、本作品で映像と共に彼の生活史を追うと、そこにもまたが必然性があるのがわかる。無学な彼の振る舞いやメッセージに宿る魅力は、身体感覚と生活感に根ざす反知性主義の本懐という感じがする。超越者への帰依と信仰、性的放埓、音楽的な官能への没頭、苦しみの生を生き、衆生に救済への道を説く、など、宗教的カリスマの類型にしばしば見られる要素が揃っている。

 彼の佇まいには、何かエルネスト•ゲバラに近いものを感じる。物静かで、情熱を秘め、勇気を持って戦い続ける。そして、底には深い愛がある。生きることの悲しみを芸術に昇華し、誰かのための光にする。普遍の価値ある生を生き抜いた個体と言えるだろう。本作品はそんな偉大な魂の記録といえよう。
   

2018年4月22日日曜日

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密


 第二次大戦中の暗号解読戦を描いた2014年作品。

 『クリプトノミコン』で読んだのでアラン・チューリングのことは知っていた。アスペと同性愛者を取り扱っているあたり、今の映画という感がある。というか、歴史的な題材をマイノリティー擁護に血道を上げる思想運動家に利用された感が否めない気がして、興ざめした部分もあることは告白しておく。

 そのへんはさておき、理系頭脳による暗号解読の戦いは熱い。きっと説明を読んでも数学的な内容はほとんど理解できず、映画でも暗号の理論についてはほとんど描いてはいないが、その雰囲気が伝わるだけでなんだか楽しい。本作品ではそんな頭脳戦の雰囲気を軸に、学童時代の記憶、性的マイノリティーの葛藤、妻との関係、仕事仲間、など、ドラマ要素がほどよく盛り込まれる。

 それなりに楽しく観られたが、全体として、配給会社の公開当初のプロモーションの勢いや受賞歴の割に、あまり新鮮味のない作品であるという気がする。邦題タイトルが中学生向けな感じなのも残念。
    

2018年4月21日土曜日

ドラゴン桜2



 既刊1巻だが、読んでみたら面白かった。

 前作、『ドラゴン桜』は学力的に落ちこぼれた高校生二人が東大合格に挑むという大学受験の漫画だった。2003年から2007年の連載で、私が読んだのは大学に合格したあとだったが、受験前に読んでいたら浪人しなかっただろうな、と悔しく思った。実際、大学の後輩が前作を読んで現役で医学部に合格したと言っていたので、書いてある内容はだいたい正しかったと思う。

 本作は前作から10年たち、時代状況が変わった2017年時点での大学受験のメソッドを伝授する指南書である。大学受験の勝者はみな知っていることだが、受験勉強を通して人生の多くの場面で通用する方法論や思考様式が養われるため、本作を通じて得られる学びは、大学受験にとどまらず、社会で生きる上で直面する多くの問題に立ち向かうのに有益であろう。本作では、スマートフォンで使えるアプリを推奨したり、(原作者・三田紀房による味のある)作画を他の人に書いてもらったりするなど、要領を追求して機能性を目指しているあたり、非常に今っぽくて適応的な匂いがする。

 私は将来『クラス一貧乏な家に生まれて医者になる話』を書きたいと考えているので、その参考にもしたいと思っている。大学受験は人生が変わる熱い戦いであると思う。続きに期待。
   

2018年4月7日土曜日

シン・ゴジラ


 伊藤計劃が観たら、なんと書いただろうか。
 前から気になっていて、やっと観ることができた2016年作品。

 全体の方向性として、国における非常事態という「状況」がメインに描かれる。全編を通して、日本の官邸における官僚らの有事への対応がメインであり、登場人物の会話の随所に、『パトレイバー2』などにみられる押井守系のエッセンス(冷静で理知的な衒学)が色濃く見られる。それに加え、本ブログ筆者には解読できなかったが、軍事的、科学的なオタク知識と遊び心が目一杯詰め込まれているらしい(監督・庵野秀明はオタク界の頂点にいる男だ)。そんなわけで内容は、オタクの楽園、という風情がある。

 あとは、震災の影響が全面に出ている。非常緊急事態に対応する国家の混乱や、市民生活への脅威、放射能による汚染を描くシーンの撮り方や、それらに対する作中での台詞が、2011年の東日本大震災と重なる。震災の5年後という公開のタイミング、今改めて『ゴジラ』を作る意味、それらが符合した必然性を感じる。本作の制作および公開は、日本人があの震災の意味を捉え直し、乗り越えるために必要なためのプロセスだったのではないかとさえ思える。祖国や日本人全体に対する、製作陣の祈りや愛のようなものを感じる。

 作品の根底にあるのは自衛隊や官僚ら、古き良き日本の職業人への讃歌だろうか。昨今、幅を利かせがちな、ちゃらついた、うわついた層ではなく、誇りや責任感を胸に、人知れず寡黙に責務を果たす、職業倫理と侠気を持った燻し銀なプロフェッショナルが活躍する作品である。
 
 そのへんをもろもろ含みつつ、エンターテイメントとして結実し、収入を上げた大変優秀な作品ということだろう。あっぱれだ。
  

2018年4月5日木曜日

オアシス:スーパーソニック


 iTunesストアで音楽ドキュメンタリー特集をやっていたので観た2016年作品。1991年にマンチェスターでデビューしたロックバンドのオアシスがイギリス史上最速でミュージックシーンの頂点へと駆け上がり、伝説となった1996年のネブワースでの大規模ライブに至るまでの軌跡を追う。

 およそ常識の通用しない、酒とドラッグと喧嘩に明け暮れるリアムとノエルのギャラガー兄弟は反知性主義の王道を行く感じがして私は好きなんだが、なぜ彼らに何者にも代え難い魅力が宿るのか、それを考えるいい機会になった。まあなんというか、動物的本能のままに生きる彼らの姿を見ていると、世間を恐れ、守りに入り、文明やセコい計算に汚された自分の卑小さに気付かされるのだ。オアシスの面々が救いようのない馬鹿であることは疑いのないところだが、生命力溢れる悪童が楽しそうに遊ぶ姿を見て、何か感じ入るものがあるのはそのせいだろう。

 私が一番好きなのは『Whatever』のPVだが、それは入っていない。映像におさまっているシーンの8割方ふてくされているか悪態ついているかのリアムが奇跡的に調和してノッている瞬間があり、それが最強に格好いい。
   

2018年3月30日金曜日

賭博者


 ドストエフスキーの中期頃の小説作品。初出は1866年。原卓也訳の新潮文庫版を速読。

■要約:青年が働くドイツの町では皆がルーレットにはまって全財産をスッちまう。

■あらすじ
 25歳のロシア人の青年アレクセイが、ドイツの架空の町ルーレテンブルクの将軍家で家庭教師の仕事をしている。将軍家には借金があり、一族に遺産を当てこまれ頼みの綱だった死にかけの婆さんがやらかす。そんな状況下、青年が好きになった女のためにルーレットに熱狂し、浮かれ、最終的には身を滅ぼす。

■感想
 作者のドストエフスキー自身もルーレット狂いで、ヨーロッパで多額の借金を背負って返済のために小説を書いていたというのは知っていたが、本作の執筆の背景にあったエピソードのショボさにはなかなか味がある。人間臭さ、といえば可愛いもんだが、人としてかなりダメな方向に突っ走っていて好感が持てる。作中に登場する、現実主義で計算高いヒロインのポリーナは当時熱をあげてフラれた元恋人がモデルになっている。そんな女に振られてヤケになってギャンブルに狂って追い込まれた末に27日間で書き上げたのが本作である。
 酒、セックス、ギャンブルなど、ロシア人ってなんであんなリスクを恐れないんだろうか、と私はいつも考えるが、本作を読んでも特に答えは出ない。遺伝子の問題か、寒さのせいか、文化のせいか、歴史のせいか。そのへんは今後とも研究課題にしたいところであるが、なんか基本的に投げやりで自暴自棄な人たちなんじゃないかと思う。
 小説としてはひたすらくどくて読みづらい…が、後半の展開は面白い。カジノシーンは『マルドゥックスクランブル』の勝ち。
    

2018年3月23日金曜日

乱


 綱淵謙錠の歴史小説。作者病没のため未完の作品である。初出は1996年。

 幕末の激動の時代の空気を膨大な歴史史料を豊富に参照しながら浮かび上がらせる歴史巨編である。主人公はフランス軍事顧問団の砲兵士官ブリュネ。画才があり、本作にも挿入されている彼の書いた行く先々の人や風景の精緻なスケッチが、繊細な感性と知性を感じさせる。メインのはずなのに出番がほとんどないが、その存在には圧倒的な魅力が宿る。

 じっくり精読するにはかなりハードだが、この重厚さの中にこそ宿る味わいがある。速読で飛ばした部分が多かったが、歳を取って幕末の物語の作品に多く触れてから読むとまた感慨深く味わえるかもしれない。贅沢な娯楽だ。
   

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