2013年12月15日日曜日

はなとゆめ


 舞台は平安時代の京。皇后である中宮定子(一条天皇の妻)の女房(仕える人)であった清少納言が、何故「枕草子」を書くに至ったか。華やかな宮中の遊びや藤原家を中心とする政争など、内裏(宮中)での日々が史実を元に丹念に描かれ、一つの対象を恋い慕う女性の心情の軌跡が一人称で綴られる。

 それまで和歌や漢詩が主流であった文学の世界において、日々の雑感を自由に綴る枕草子のような随筆は画期的な表現形式であった。ユーモアや興趣を交えて、才人清少納言が己の感性のままに赤裸々に綴るエッセイは当時の宮中で大好評を博したという。

 本編も枕草子も共通して、悲嘆や恨み言を良しとしない高貴な品性が全編を貫いている。敬愛する定子が政争に巻き込まれ没落していく過酷な状況の中にあっても、清少納言は美しいものだけを書き残そうとした。

 時代背景の理解がないと最初はとっつきづらいが、慣れるとサクサク進む。作者冲方丁は何故この題材を選んだのか考えながら読んでいたが、終盤にくるとなんとなく主意が見えてきた。美しい文章を書き残すことは祈りなのだ。かつて在ったものを忘れず、その記憶を慈しみ、未来に伝えるための。宮中に確かにあった華(はな)が千年先も続くように。
   

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