2013年8月31日土曜日

姑獲鳥の夏



 「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」

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 さしづめ文系の森博嗣みたいな作風だろうと先入観を持って挑んだが、違った。

 昭和20年代の東京を舞台に、お祓いで憑き物を落とす陰陽師として生計を立てながら、古今東西の書に読み耽る博覧強記の古書店主でもある『京極堂』と、その仲間たちが猟奇的な事件に挑む(らしい)京極堂シリーズの1冊目。代々続く産科医院で院長の娘が20箇月も子供を孕んでいるという奇妙な事実や若き医師の失踪といった事件を知り、主人公の関口が旧友らと力を合わせて謎を解くというのが筋。

 呪われた家系という非科学的なイメージが付きまとう怪異に、現実主義者である京極堂や特殊な能力をもつ私立探偵榎木津らの助けを借りて真相に迫ってゆく。登場人物同士の会話として出てくる京極堂の衒学的な語りがこの作品の最大の特徴であり、他にはない魅力を生み出している。話題は宗教や民俗学の伝承など人文学的な領域にとどまらず、量子力学の不確定性原理、意識を扱う脳科学や認識論に関する着想や理解など、京極堂の博識と先見性として描かれるが、その淀みない軽妙な語り口がひたすら心地いい。

 知識欲が刺激され、本格的な猟奇ミステリーを楽しめる。分厚いが冗長さに退屈することなく、のめりこんで一気に読んだ。古い日本語が生み出す昭和の空気もいい。このシリーズはもっと読みたい。
   

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