2018年9月2日日曜日

犬の心臓・運命の卵


 ソヴィエト体制下で発禁処分となっていたロシア人作家ブルガーコフの掌編2つ。

『犬の心臓』
 権威ある大学教授である脳外科医が、野良犬に人間の脳下垂体(脳にある内分泌器官)と睾丸を移植したところ、犬は次第に人間のような姿に変化して言葉を話すようになり…という話。1920年代に執筆されたようだが検閲を受け発禁となり、作者の死後に出版された。

『運命の卵』
 権威ある科学者が、卵の孵化を促進する光線を発明したが、政府当局に目をつけられ装置を没収されてしまう。無教養な農夫がその光線を鶏の卵に使用して大量生産を目論むが…という話。1925年発表だが、1930年代後半に発禁処分となった。

 解説によると、いずれの作品も「実験の失敗」が描かれており、共産主義革命後のロシアの体制の批判する内容になっているらしい。両作品ともに、優秀な科学者の理想や暮らしをセンスのない下層民が出しゃばってきて滅茶苦茶にする、という雰囲気が通底している。この苦々しさは、ブルガーコフが革命後に感じていたことだろうし、ロシア中の知識階級が感じていたであろう共通の感慨であろうと思われる。壮大な社会実験である共産主義革命が失敗に終わるというのは20世紀後半に明らかになるわけだが、当時を生きる人々にとって救いのない状況であったことがよくわかる。

 ソ連時代のロシアの雰囲気を知る物語として、良質ではないかと。
   

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブログ アーカイブ