2014年9月25日木曜日

波の上の魔術師


 7年ぶりくらいに読み返した。老いた相場師が先が見えず無為に日々を送る若者にマーケットのイロハを伝授し、個人的な復讐のために大手都市銀行に勝負を挑む話。

 主人公の造形は限りなく同作者の『池袋ウエストゲートパーク』に近く、TOKIOの長瀬智也の野性の獣のような鋭い視線の若者の像が浮かぶ(テレビドラマ版では実際に演じている)。一人称の語り口や学歴社会に馴染めない醒めた態度と観察眼、女性や芸術的意匠への素朴な審美眼もそう。作者石田衣良の理想の自己像っていうことなんだろう。

 舞台となる1998年はバブル崩壊後の日本の金融恐慌のまっただ中。1997年末に拓殖銀行と山一証券が倒産し、この年以降自殺者は15年連続で3万人を超える。経済的な困窮が人を自死に至らしめる、という普遍的な人間の真理が作品の中にも描かれ、筆者が個人的に注目する日本経済の混迷期の空気が感じられたのが再読して得られた一番の収穫であった。

 株式相場と復讐劇を主軸に、ロマンスあり、クライムあり、成長あり、世代を超えた交流があり、コンパクトにまとめられ手っ取り早く読めるエンターテイメントに仕上がっている。秋の話なので、秋の夜長の読書にも最適。誰にでもお勧めできる佳作。
   

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