2017年6月29日木曜日

ゴジラ


 海から巨大怪獣が現れて東京を火の海にする話。
 1954年(昭和29年)作品。東宝。

 表現は特撮SFではあるが、ストーリーとして反核、反兵器という思想の押しが強い。『生きる』に出てくる市役所の万年課長のおっさん(志村喬)が生物学者として登場するのは、彼が昭和のヒューマニズムを体現した存在だったからだろう。凡庸ながら芯の強い人柄を演じる役柄もさておき、その顔立ちが過不足なく日本人を代表している。他にも、登場する昭和の日本人たちの立ち居振る舞いや語り口が印象的だ。なんというか、物事がシンプルで、今観ると新鮮。

 『シン・ゴジラ』を観ていないので、近いうちに観たい。比較せねば。
   

2017年6月11日日曜日

一夢庵風流記


 今年読んだ小説の中ではベスト級。面白いな隆慶一郎。1989年作品。

 世は戦国時代。主人公の前田慶次郎は戦場では無類の強さを誇りながら、風流を愛し、奇抜ながらも洒脱な生き方を追求する傾奇者(かぶきもの)である。権力や時勢におもねることなく、我が身の危険にも無頓着で、その生き方はぶれることがない。ただ己の欲するがままに恋と喧嘩に興じ、戦を愛し、酒を愛し、茶の湯を愛し、詩歌を愛し、悪ふざけを愛し、女を愛する。

 これぞ理想の男の生き様である。シンプルに、あるがままに人生を楽しむ姿はただただ美しく、当人もさることながら、誰の目から見ても気持ちがいい。作者同様、彼に出会った人々が惚れ込んでいくことで、その無茶苦茶な生き様の実現可能性が高まっていくのが実感できる。

 かぶいて生きていた部活の某先輩はこの人をモデルにしているんじゃないかとふと思った。
 人生を楽しむためには、男は強くあらねばなるまい。
   

2017年6月4日日曜日

椿三十郎


 これは面白かった。
 黒澤明監督、三船敏郎主演の1962年(昭和37年)作品。
 流浪の剣豪が戦う時代活劇の佳作。

 時間が96分、コンパクトにまとまり、展開もサクサクしていて楽しい。ストーリー運び自体も視聴者を飽きさせない緊張と弛緩があり、緩急の付け方がうまい。箸休めのように挟まれるコミカルな場面や風雅なシーンもいい。全体を通して野卑さと優雅さの対比が目立ち、互いに際立てあっていて、観ていて楽しい。

 主人公の椿三十郎は見た目はむさく、口は悪いが、懐が深く、腕っ節は滅法強い。昔の『こち亀』の両津の原型が見て取れるというか、昭和の男の理想像の鋳型の一つがここにある。昭和のおっさんは皆こういう男に憧れていたのだ。
   

2017年5月14日日曜日

百年の孤独


 コロンビアの文豪ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作。1967年作品。

 これは読むのがしんどかったが面白かった。
 舞台は南米の架空の村マコンド。約100年間、数世代にわたる一族の歴史が語られる。これだけ書くと何が面白いんだかさっぱり分からないが、怒濤の情報量の中に、豊穰なインスピレーションや物語性が満ち満ちている。女狂いのダメな男、陰気で悪運に満ちた人生を送る男、家を守るために奮闘する女、神秘的な娼婦、魔術的な道具を持って現れるジプシー。数年にわたり雨が降り続けたり、人が空を飛んだり、家畜が爆発的に繁殖したり、わけのわからないことがいっぱい起こる(マジック・リアリズム)。

 こんなにわけがわからないが楽しい読書体験はあまりない。ノリは同じ南米のボルヘス(『伝奇集』)に近い南米の混沌と熱気がある。あと、インタビューでもファンを公言する古川日出男の作品の雰囲気の源流はここにあったのだとわかる(『サウンドトラック』とか)。同じ名前の人が一族に何度も出現するなど混乱させられるが、それすらも醍醐味に思える。言語化した説明が難しい勢い、妖しさ、生命力、ダイナミズムが溢れ、ラストに向かって突き進んでいく。

 またいつか読みたいと思う作品。こらノーベル文学賞もとりますわ。
   

2017年4月29日土曜日

アメリカン・ジゴロ


 アルマーニ監修だというファッションに興味があって観た1980年映画。

 リチャード・ギア扮するLAで活動する男娼(ジゴロ)の男のファッションが格好いい。過度な装飾を排し、快適さと余裕を漂わせるエレガンスがアルマーニ流。リチャード・ギアの端正な顔とスタイルにハマっている。あとは『スカーフェイス』を観たときも思ったが、人工的でポップな音楽が1980年代って感じ。

 内容はまあ…、特に取り立てることもない。調子に乗った男が痛い目に遭う話。
   

SGT. PEPPER’S LONELY HERTS CLUB BAND


 「サージェントペパーズ・ロンリーハーツクラブバンド」と読む。伝説的な名盤として名高いビートルズの1967年作品。

 歴史上最も偉大なロックアルバム、みたいなランキングを作ると大体これが1位になる。ということで、ロックを体系的に学習しようしていた筆者が大学生の頃に買ったものである。初めて通して聴いた時、正直いうと、「それほどじゃないんじゃないか…」と思ったことは告白しておく。

 内容としては、世界初のコンセプトアルバム(ペパー軍曹のブラスバンドがライブをしているという設定)であり、ライブで演奏するシンプルな編成のロック音楽に限界を感じたメンバーがスタジオにこもって作った作品である。実験的要素に満ちていて、音や構成の遊びが沢山ある(ラストの謎のお喋りのループとか)。ビーチボーイズの名盤『Pet sounds』にインスパイアされたとメンバーはしばしば語るが、あまり全体への影響はない気がする(#6 She’s leaving homeとか、もの憂げな曲がそうなのか)。

 まあ、数年ぶりにじっくり聴いてみたわけだが、クリエイティブなエネルギーやインスピレーションに満ちているとは思うが、音楽的な感動があるかというと「まあそんなには…」という感想。ロック音楽の歴史的転換点となったという一点において大きな価値がある作品だろう。

 一連の流れを経て、最後に来る#13 A Day In The Lifeは好き。
   

フルーツ宅配便


 1話完結型のデリバリーヘルスの漫画。既刊2巻。

 エロシーンは皆無で、「どのようにして女性は性風俗店で働くようになるのか」に焦点をあてた人間ドラマが主。ほのぼのした絵柄とキャラクターで描かれるが、路線は『ウシジマくん』に近く、そのテーマは切実で、金銭的な問題で風俗に身を落とさざるを得なかった女性たちの鈍い痛みが底に流れる。

 劣悪な養育環境、低い自己評価、借金、暴力、シングルマザー…etc. 彼女らはいつの時代にも一定数存在し、軽侮の対象になりながらしばしば黙殺され、誰にも注意を向けられることなく、社会の水面下で生きていく。光のあたらない場所で、醜い欲望や狡猾な業者に搾取され、踏みにじられ、そして、ゆっくりと命を奪われていく。

 筆者が個人的に考えている、心の専門家になる人に読んでほしい本シリーズに加えたい。己の尊厳を犠牲にすることを選ばざるを得なかった女性たちを、誰に責めることができよう。
   

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