2016年12月31日土曜日

narrative of the year 2016


1位 殺人犯はそこにいる(ノンフィクション)
 今年は警察や司法の闇に関連した本をいくつか読んだが、これは最高峰。ていうか怖すぎ。

2位 ガープの世界(小説)
 ハイクオリティな長編小説。個人的な好みにジャストミート。

3位 わたしの日々(エッセイ漫画)
 理想の人生像がこの本を読んでだいぶ変わった。

4位 父と息子のフィルムクラブ(ノンフィクション)
 ブログをやっているのはこういう父親になりたいから。

 学問領域として個人的に外せない。市井の人々の物語を想像すると胸に迫る。

6位 魚舟・獣舟(小説)
 よくできた虚構の物語として。教訓とか期待せず読むのが吉。

7位 ゆとりですがなにか(ドラマ)
 当直中に観るのが楽しみだった。
 
 一作選ぶならこれ。

9位 (小説)
 骨太な歴史物が好きになりつつある。これも歳か。

10位 ディパーテッド(映画)
 悪漢の出る映画が好き。
   

2016年12月30日金曜日

映画クレヨンしんちゃんシリーズのまとめ


☆★おすすめランキング★☆

8位 スパイ大作戦(2011年)
9位 ブタのヒヅメ(1998年)
10位 カスカベ野生王国(2009年)
12位 サボテン大襲撃(2015年)
16位 ハイグレ魔王(1993年)
18位 歌うケツだけ爆弾(2007年)
19位 雲黒斎の野望(1995年)
20位 暗黒タマタマ(1997年)
21位 宇宙のプリンセス(2012年)
22位 金矛の勇者(2008年)
24位 踊れアミーゴ(2006年)



 シリーズを通して、基本は大人も子供も楽しめるファミリームービーであり、家族皆で楽しめる娯楽作品となっている。大人に寄り過ぎたり、子供に向き過ぎたり、横着して雑になったり、いろいろあるが、基本は安心して笑えるおバカで楽しい娯楽映画である。

 大人(30代~40代くらいを想定)が楽しいのはアッパレ戦国オトナ帝国ロボとーちゃん。子供が好きそうなのは嵐を呼ぶジャングルとかケツだけ爆弾。世界観の作り込みなど総合力ではヘンダーランドカスカベボーイズ超時空オラの花嫁あたりが強い。13作目(3分ポッキリ)から16作目(金矛の勇者)は暗黒時代なので、お勧めしない。

 筆者の個人的な考察として、何度か書いたが『クレヨンしんちゃん』という作品の本質は「抑圧された日本人のための娯楽」だと思う。下品で正直で自由なしんのすけは、親や学校や会社に抑圧されている人々のオルターエゴである。欲望と衝動のままに振る舞い、性の解放や諧謔(ユーモア)による社会風刺を顕現することで、真面目で窮屈な日本人の抑圧された魂を救済している。つまり、本シリーズの真の主人公は風間くんである(『ファイトクラブ』と同じ構造)。劇場版の扱いを見れば分かる。

 そして、クオリティのばらつき。ヒットを重ね、長寿シリーズになると共に、ネタの使い回しなどダメな部分が出てくるのが目に付く。産業化されて情熱がなくなったロック音楽に似ているというか、映像技術が高なる一方で内容が昔のヒット作の焼き直しばかりになりがちなアニメやゲームの業界に近いというか。商業化が製作陣の心を失わせ、良質な物語をダメにする産業構造が垣間見える。しかし、しばしば製作陣が奮起して復活するのは特筆に値する。『ロボとーちゃん』とかマジでビビる。そうした商売魂と制作魂の対立によって生まれるダイナミズムを意識すると、シリーズ鑑賞を一層楽しめるように思う。

 あとは、条件の変化と適応。ぶりぶりざえもんの声優が2002年に事故で急逝したため、以降の作品では声を聞けない。最高レベルに面白い素材だったのに惜しまれる。2009年には原作者、2016年には園長先生の声優が逝去している。原作者の登場など初期の定番ネタが封印されたりしつつ、新たな要素を取り入れては進化を続けているのが好ましい。それは2016年末時点の今も現在進行形で続いている。

 現存する24作品を全部観てみて、割と有意義な体験だったと満足。
 いつか誰かと酒の席で語り合いたいもんだ。
   

映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃


 24作目。2016年作品。夢の世界の冒険。
 AmazonビデオにないためDVDを借りて鑑賞。

 これは良作。映像的に非日常な祭り感があり、ストーリーの深みも程よい。家族で観た唯一の作品だが、3歳の娘が飽きずに観続けられる一方で、大人が観ていても退屈しないあたりに凄味を感じる。笑い、バトル、人間ドラマがバランス良く配置され、ファミリームービーとして全体の仕上がりが丁度いい。

 これで全作コンプリート。楽しかったな。
     

2016年12月29日木曜日

映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~


 23作目。2015年作品。メキシコ・パニック・ムービー。

 いきなりヒロシがメキシコ支社に転勤になるところから物語が始まる。序盤は野原家の引っ越し、中盤以降は人食いサボテンが町を襲うパニックムービーになる。

 『踊れアミーゴ』の改良版という感じで、異国情緒あり、ホラー要素あり、観賞後はカタルシスありで観ていて楽しい。伏線の仕込みなど構成がうまく、恐怖と笑いのサジ加減もちょうどいい。深い感動やテーマがあるわけではないが、娯楽作品として良作だと思う。

 あとは…クレヨンしんちゃんの裏設定というか、真の主人公は風間くんだと思った。『ファイトクラブ』でいうところのタイラー・ダーデンがしんのすけにあたる。日本中の優等生を強要されている子供達にとってのオルターエゴなんだろう。下品で自然体な立ち居振る舞いが、己を押し殺して生きる彼らに救済を与えている。
   

2016年12月28日水曜日

映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん


 22作目。2014年作品。父がある日、機械になるという話。

 「いや、それはねーだろ(笑)」とタイトルとポスターを見るだけでツッコミたくなるが、中身も製作陣の悪ノリが過ぎて、観ていてニヤニヤが止まらない。日常の中で違和感全開のロボット描写をしてふざけつつも、父親のアイデンティティを問う内容であり、軽くグレッグ・イーガン路線でSFファンの嗜好をくすぐる。要所要所で見せるロボとーちゃんとみさえの表情が繊細な心の機微を描き、胸を打つ。

 完全に色モノだが、これはかなりの傑作。親世代にはたまらない作品。
   

映画クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!


 21作目。2013年作品。B級グルメ食べに行ったら敵に追われる。

 これまたイマイチ。作風は『嵐を呼ぶジャングル』に近く、分かりやすい冒険活劇で小学生くらいの子供を標的にしている感じ。デジタルな技術を使うとテンポが悪くなるのか、これまた間がなんだか変。会話劇やアクションシーンは精彩を欠き、いまいち笑いや感動のツボに来ない。小学生向けの作品としては及第点だが、もっと面白くできる素材だったと思えるのに残念。

 続けて観ているせいか、5歳児の友情、家族愛、敵を倒す方法など、定番の型を使い回す感じがやはり興醒め。新しいものを見せてほしいと思うのはスレた大人のワガママなのか。映画としてもB級かな。
   

2016年12月27日火曜日

経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策



 結論:死ぬよ。

 経済的不況に見舞われた時、国は財政緊縮策(健康保険、失業者支援、住宅補助などの政府支出を減らす)か財政刺激策(上記の社会的セーフティネットに積極的に予算を配分する)のいずれかを選び、危機を乗り切ろうとする。そこで前者の財政緊縮を選ぶと人が死にまくり、経済も伸び悩む、というのが作者の主張。主に1929年~2012年の各国データを基に事例を挙げながら経済政策と公衆衛生の関連を論証していく。

 事例は1929年の大恐慌後のアメリカのニューディール政策、1991年のソ連崩壊後の急速な市場経済への移行、1997年のアジア通貨危機後の東南アジア、2007年のアメリカのサブプライムローンの破綻に端を発する世界同時不況下でのギリシア、アメリカ、イギリス、アイスランド、スウェーデンの動向など。疫学的なデータや経済指標を統計学的手法を用いて解析すると、経済政策の選択によっていかなる惨禍が起きるのかがよくわかる。

 国が公衆衛生の予算や住宅補助をケチると、国中にHIVや結核が蔓延し、労働力になりうる人々が自殺や心臓疾患やアルコール依存で沢山死ぬ。IMF(国際通貨基金)やECB(欧州中央銀行)など、エコノミスト達は帳簿上の数字と理論を重視し、国民の健康を過小評価しがちらしい。そして、結局は蝕まれた国民の健康に経済も足を引っ張られる。実世界では数えきれない数の悲劇に見舞われる家族が生み出され、国が地獄絵図と化す。

 これは今年読んだ本の中で最も有益な一冊。

・・・

 経済には、人々がアルコールを暴飲するようになる、ホームレスシェルターで結核に感染する、鬱病になるといったリスクの程度を高めたり低めたりする力がある。高める方向に働けば死亡リスクが増大するが、低める方向に働けばそれは保護となり、ホームレス状態から脱したり、人生を立て直す人が増え、死亡リスクは減少する。だからこそ、たとえわずかな予算変更であっても、それがボディ・エコノミックに---ときには予想外の---大きな影響を及ぼすことがある。

 本書 p236


2016年12月26日月曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶオラと宇宙のプリンセス


 20作目。2012年作品。ひまわりが異星人にさらわれる。

 イマイチ。というか、かなり駄目。
 既存のテクニックに頼った演出はチープで、デジタルなアニメ技術など表層上のテクニックに任せて内容が疎かになった印象。目新しさも痛快さもなく、製作陣の情熱や魂が感じられない。形式をただ借りているという感じで、『ケツだけ爆弾』や『金矛の勇者』に通じる浅薄さがある。その証拠として、20作目というメモリアルな作品なのに興行成績は歴代ワーストに近い。

 シリーズへの愛がない、面倒くさい勢力が作品を駄目にしているのかなあ、と邪推。
 主題歌はAKBだし。邪推か?
     

2016年12月25日日曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦


 19作目。2011年作品。
 これまた傑作。
 
 冒頭、どういうわけかしんのすけが謎の機関に選ばれ、使者である少女レモンにスパイとしての訓練を施される。内容は『ミッション・インポッシブル』のパロディ…という導入から、次第に独自の展開へ続く。

 これはテーマの選び方の妙で、クレしん映画との相性はバッチリ。温泉の感想で少し書いたが、クレヨンしんちゃんという作品の本質はロックな反骨精神による魂の解放にあると思う。性的放埒とユーモアはヒトを非人間化するシステムへの反抗であり、欺瞞を剥ぎ取り、感情を呼び覚まし、人間化を促す手段である。国家に殉ずる機械となることを求められるスパイという職業は非人間化の最たるものであり、クレしんワールドの人々と出会うことで起こる作中の化学反応は必然だった。あと、人前で屁をこくという行為はロックだと思う(本気だ)。

 お下品で、痛快で、人間性を取り戻すヒトの話。これは名作。
   

映画クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁


 18作目。2010年作品。近未来SF。
 これまた面白く、第二の黄金期に入ったと思える。

 しんのすけの花嫁を名乗る女性に連れられ、約20年後の世界にタイムスリップ。そこは経済的な格差が広がり、光の失われた世界。煌びやかな都心の郊外には荒廃したスラム街が広がる。そこへいつものメンバーが迷い込み…という話。

 時代背景として、2008年のリーマンショック後の世界大不況の中で作られた物語であるということ。間違いなく製作陣はクレしん映画の存在意義を確信しており、揺るぎない信念に沿って作品が作られたのが分かる。公開前年に原作者の臼井義人が登山中の事故で故人となったことにも留意が必要である。

 馬鹿馬鹿しさと隣人愛。
 それはきっと、人の世の光。
   

映画クレヨンしんちゃん オタケベ! カスカベ野生王国


 17作目。2009年作品。

 これは…復活ですわ。
 13作目16作目の迷走した暗黒時代を経て、クレしん映画のあるべき姿を取り戻している。テンポのいいギャグが気持ちよく、展開もサクサク進んで楽しい。感動させつつも押し付けがましさやあざとさがなくスッキリ。馬鹿馬鹿しさの裏にあるメッセージも意義深い。

 内容は倒錯した環境保護の風刺で、個人の不全感を人類全体への不満に置換する無差別テロやカルト教団の病理を描く。みさえやひろしをはじめ、おなじみのメンバーが動物化していく非日常感と、その必然性の両立が見事。動物のチョイスもニクい。

 子供も大人も楽しめる、質の高いクレしん映画が戻ってきたことに安心。
 この路線でガンガン攻めてほしい。
   

2016年12月24日土曜日

ホームアローン2


 クリスマスイブに鑑賞。ケビンがニューヨークで迷子になる話。

 子供の頃から何度も観た作品だが、大人になってから観ていっそう楽しめた。全体としてプロットがよくできており、伏線の仕込みと効かせ方が巧い。そしてワンシーン、ワンシーンが楽しく、飽きさせない。小学生から大人まで楽しませるという力技を随所に感じる。ハイクオリティな家族映画として歴史に残る名作だろう。

 プラザホテルのオーナーのトランプも出ている。観るなら今でしょう。
   

レヴェナント 蘇えりし者


 1820年頃、西部開拓時代のアメリカの猟師が山野を彷徨い、復讐する話。

 まずは映像美。ドローンを使用したと思われる、雄大な冬の渓谷の映像は圧巻。ロングカットの戦闘シーンも臨場感がある。撮影は『ゼログラビティ』と同じ人で、アカデミー撮影賞受賞も納得のクオリティ。

 ストーリーはまあ…それなり。北海道民として強く思ったのは「寒さ舐めんな」。『網走番外地』を観た時も思ったが、氷点下の屋外を何時間、何日も人間が動き回るのは不自然だ。あとは熊に襲われるシーンがあるが、動物咬傷の感染の影響を過小評価しすぎ。概して、主人公がタフすぎて現実味がない。実話に基づくそうだが、脚色が過ぎているという印象。

 レオナルド・ディカプリオ悲願のアカデミー主演男優賞を獲得した作品だが、筆者個人としては『ウルフオブウォールストリート』路線の方が断然好き。一貫して質の高い演技をする俳優だとは思うが、別にこれじゃなくても…という個人的な感想。

 全体的に質の高い映画ではあると思うが、なんだか惜しい。
    

2016年12月22日木曜日

映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者


 16作目。2008年作品。剣と魔法のファンタジー。

 子供が観ててそれなりに楽しめる…が、やはり12作目以前にあった製作陣の本気さみたいなものが感じられない。Amazonレビューの評価も13作目以降下がりっぱなしで、それは実際の感覚とマッチする。

 デジタルな作画の技術は上がっているが、内容は空疎というか、昔当たったネタの使い回しが気になる。野原家の家族のイデオロギーの押し付けもなんだか寒々しい(劇場版だけ連続で観ているせいかもしれないが)。突出した面白さを狙うスタッフの勇気がない時期だったのかなと思う。3分ポッキリとか踊れアミーゴとか明らかに駄作でも興行成績10億円以上のドル箱なわけで、士気も下がろうというもの。

 ただ、試行錯誤を続ける製作陣の姿勢は評価できる。大人がニヤリとして、子供が笑い転げる、かつてあったクレしん映画の本物感をまた出してほしいもんだ、と思う。折角のポテンシャルが惜しい。
   

2016年12月21日水曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌う ケツだけ爆弾!


 15作目。2007年作品。爆弾パニックムービー。

 前2作と比べて、クレしん映画の美徳を取り戻した感がある。これくらいの軽さでいいよね、と再確認。子供と安心して観られる。コミカルさの加減が丁度いい。

 減点は泣かせのテクのあざとさと、AKBの声優陣の違和感。商業主義がシリーズを駄目にするんだろう、と落胆。シリーズの芯のぶれ方を見ると、製作陣、経営陣、いろいろ人間関係のドラマがあったんだろうと推察される。

 今後シリーズが復活するのかに注目。
   

2016年12月20日火曜日

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!


 14作目。2006年作品。

 序盤から、春日部の町の住人が偽物と入れ替わっていくという、陽気そうなタイトルとポスターとは真逆のガチなホラー展開。子供が楽しめる作りにはなっていないというか、制作者の哲学がないというか。もーダメだわこの監督、と思う作品である。

 前作からなんというか、間が変。クレヨンしんちゃん映画の魅力だった愛のある下品さというか、絶妙な線引きのパロディというか、そういうのがなくて、先人達が培ってきた表層上のテクニックと理論だけでクレしん映画を作っている感。

 求めてるのはそういうのじゃねえんだよ、というのが感想。
 断片的にいい感じのシーンがあるのに惜しい。
   
   

2016年12月19日月曜日

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃


 13作目。2005年作品。
 ここにきてガラッと作風が変わる。監督が変わったらしい。

 「次は円谷プロの特撮風でいきましょう!」という制作会議を経て作られたことが容易に想像される。が、内容は…イマイチ。メリハリ、緩急のない脚本が良くないんだと思う。風情が削がれるデジタルな配色も相まって、なんだかチープな感じ。笑いも感動も大したことない。SF色とか、テーマ設定とか、素材を活かせていない。

 これまで観た中では一番イケてない作品。革新に失敗した感。
   

2016年12月18日日曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 夕陽のカスカベボーイズ


 2004年作品。12作目。
 野原家&カスカベ防衛隊(風間くんとか)が西部劇の世界にトリップ。

 ノーマークだったがこれは面白かった。戦国アッパレもそうだが、時代考証をしっかりしている(と思われる)ため、時代や場所の空気の再現度が高い。おふざけとシリアスの配分も程よく、大人も子供も気持ちよく楽しめる。温泉の以降、同性愛者が少ないのは時代の変化だろう。

 水島努監督の2作目だが、だいぶこなれてきた感がある。製作陣が楽しく作ったんだろう。いい感じ。
   

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード


 11作目。2003年作品。野原一家の逃避行。

 前2作とはうって変わり、潔くおバカな娯楽映画をしている。高度な技術を使って、無駄にクオリティの高いアクションシーンを作るあたりが好感。『地獄の黙示録』のパロディなど映画関連の小ネタが多く、教養のある大人も楽しい。昨今は希少な、家族そろって楽しめるファミリー映画として一つの様式美を確立した感がある。

 世界に危険は多々あれど、家族で焼き肉を食べる幸福があるから人は生きていける。
 たぶん、そういう映画。
   

2016年12月14日水曜日

のぼうの城


 「のぼう様」と呼ばれる殿様の治める城が攻め込まれて戦うという話。脚色もあるが、内容は史実に基づく。

 時は戦国の世、兵力500程度の小国が、2万を越える圧倒的な大群を率いた石田三成の軍をいかにして破るか…という話。臣下にも、城下の民にさえも、鈍重な愚物と思われていた君主・成田長親(ながちか)が、国の存亡がかかった究極の局面に立たされる。

 期せずして、『アッパレ戦国大合戦』と近い時代で、映像的に情景が浮かんで楽しめた。内容は弱小チームの番狂わせであり、GIANT KILLINGな物語であり、人物造型が現代風になっていたり、潔くエンターテイメントしていて、読んでいて楽しかった。

 良質な大衆娯楽。若者の時代小説入門にちょうどいい。
    

2016年12月13日火曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦


 10作目。2002年作品。

 野原一家が戦国時代にタイムスリップ…という雲黒斎とほとんど同じ設定だが、格が違う。当時の空気の再現度と言おうか、透明感のある、静謐で穏やかな古き日本の描写が圧巻。筋立ての方も子供の観客がメインのクレヨンしんちゃんの映画をやりつつ、時代物として、悲恋の物語として、両立させるプロットの仕上がりが素晴らしい。

 現時点で最高傑作は間違いなくこれ。子供にも大人にも勧めたい。心が綺麗になる。
   

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲


 第9作目。最高傑作として名高い2001年の作品。

 20世紀のノスタルジーに浸る大人を風刺した映画である。申し訳程度に子供も笑える場面が挿入されるが、全編を通して圧倒的に大人向け。過剰に強調された昭和の空気と、退行する大人の描写が怖い。

 岡田斗司夫の分析が有名だが(これ)、余計な説明もなく、批評性を持った文芸作品の域に達する仕上がりになっている。『ALWAYS 3丁目の夕日』(2005年作品)の出現を予見しているという事実が何より恐ろしい。

 大人にお勧めするのは圧倒的にこれだろう。子供にはチンプンカンプンだろうから、全然オススメではない。
   

2016年12月12日月曜日

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル


 第8作目。2000年作品。

 クレしんのレギュラーメンバーが孤島のジャングルを冒険する話…という以上でも以下でもない。王道っちゃあ王道だが、暗黒タマタマと同様、ホームランを狙わずシングルヒットが散発する感じ。戦闘シーンが冗長でテンポが悪いのが難点。パラダイスキングはいいキャラしているのになんか惜しい。

 全体としてイマイチ。もっと色々攻めてほしいところ。
   

2016年12月11日日曜日

映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦


 7作目。1999年作品。温泉の風情×ゴジラ系特撮のエッセンス。

 馬鹿馬鹿しさの濃度が高めだが、展開の中でちょいちょい風刺やメッセージをはさむ。丹波哲郎が出てきたりして、日本の粋な風情が強調される。温泉がテーマだけにエロ要素は多めで、家族で観るとお父さんはちょっと気まずいので注意。

 クレヨンしんちゃんの主要な要素ってロックな反骨精神だな、と観ていてふと思った。性の開放、空気を読まない悪ふざけ、底には深い愛がある。受験や習い事で疲れた子供や、退屈で忙しい毎日にくたびれているお父さんお母さんに響くんだろうな。子供向けアニメという体で人間の業を肯定し、魂を解放する作品なのだと思う。だからくだらなくて、救われる。その役割を果たしている。

 同時上映の小品集は実験的で楽しい。これで必要十分。役割を果たしている。
    

高い城の男


 鬼才フィリップ・K・ディックの最高傑作との誉れ高い歴史SF。1963年度ヒューゴー賞受賞。カズレーザーが「読書芸人」で推薦していた作品でもある。

 第二次世界大戦で枢軸国側(日本やドイツ)が勝っていたらどうなっていたか…という世界の話が、アメリカに暮らす複数人の視点から描かれる。一見、SF要素は少ないが、異なる世界線を描いているため改変歴史SFのジャンルに入る。逆の立場から我々が暮らす現実社会の世界線を描くメタな作中作(イナゴ身重く横たわる)を巡る説明でそのように言及している。

 世界を制覇するのはドイツ民族と日本人。ドイツは宇宙開発し、日本人は独自の文化様式で恐れ敬われる。アメリカの白人は卑屈に振るまい、戦勝国の民族の機嫌をうかがう。滑稽で奇矯に映る各人の振る舞いが精密に描かれ、歴史と社会への強烈な風刺になっている。

 初読での理解はきっと難しい。が、繰り返し読む価値がある。人は歴史の影響から逃れられない。運命に翻弄されながら生きる個人の生を考える。またいつか読み返したい。
   

2016年12月10日土曜日

映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦


 6作目。1998年作品。『ブリブリ王国』に続き、再びスパイアクション映画系。

 シリアスさとおふざけのさじ加減が絶妙。子供が観ても楽めるノリで、親の世代の心を打つ描写を混ぜてくるというクレしん映画の黄金律を確立した感がある。助っ人のSMLの二人やぶりぶりざえもんのキャラクターを代表として、全編に笑いと愛があり、観賞後にいい気持ちになれる。素晴らしい娯楽作品。

 オカマ、実在の芸能人、既存のジャンル映画の踏襲…という定式を基盤として、愛と笑いを混ぜて仕上げてくる。こういうのが続くなら嬉しい。
   

2016年12月9日金曜日

映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡


 5作目。1997年作品。

 これまで観た中では最もイマイチ。東北が舞台の伝奇物語、妹ひまわりの映画初登場…という目新しい素材があるも、活かしきれてない。ジャブの連発でストレートがない。製作陣がサボっている印象。

 ポテンシャルはこんなものではないはずだ。続きに期待。
   

2016年12月8日木曜日

映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険


 4作目。1996年作品。ファンタジーな遊園地の冒険。

 これまで観た初期の作品では最高峰と断言したい完成度。5歳くらいの子供が観たらトラウマになりそうな怖い描写から、子供も大人も笑える場面まで。アクション仮面やぶりぶりざえもんらとの掛け合い、ヒロシの劇画、ラストの追いかけっこは小学生の頃も笑ったが、今観ても笑えた。展開の緩急や、タッチの変化も自在で、観ていてずっと楽しい。

 子供向け映画としては一つの到達点と言えよう。トランスジェンダー仮説(敵がオカマ)も健在。

 制作技術の進化を感じる。続きも楽しみ。
    

映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望


 3作目。1995年作品。野原家が戦国時代にタイムスリップ。

 時間SFであり、時代物でもあるという欲張りな作品…だが、欲張りすぎて全体としては今イチ。小学生の頃に観てあんまり面白くないと思った記憶があるが、今観てもあんまり面白くない。一つ一つの要素は良さげだが、全体として合わせるとどれも中途半端で勿体ない感じ。雲黒斎の正体など、シュールな人物像や世界観は後の作品に生きてくる感じはある。インスピレーションは豊かだが、作品として結実できていない印象。

 あと、映画版の悪役はトランスジェンダーな人(オカマ)が多いのが気になる。なんか製作陣のこだわりとかあるんだろうか。

 というわけで、全体としてなんか惜しい感じ。
   

2016年12月6日火曜日

映画クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝


 2作目。1994年作品。
 
 007シリーズ、インディ・ジョーンズ、ハムナプトラみたいな冒険活劇している。野原家が南国の遺跡を巡り、王家に伝わる秘宝を狙う悪の軍団と戦うアドベンチャー。

 2作目ということで製作陣も攻めている。突如挿入されるミュージカル、実在の登場人物を登場させる(ニュースステーションの小宮悦子)、戦闘シーンの殺陣や変な踊りが異常に質が高い…など、後半の作品群の布石となる独自路線を追求する姿勢が見て取れる。楽しんで作ったんだろうなあ、とうかがえ、好感度が高い。

 大人が観てもニヤリとする場面が増えてきた。さらなる進化に期待。
   

2016年12月5日月曜日

映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王


 年末特別企画。Amazonビデオでクレヨンしんちゃんの映画を全部観てみよう、と思ったのでその1発目。1993年作品。

 初めて観た小学生以来20年以上経っているわけだが、今観ると発見が多くて面白かった。第一作目特有の肩肘張ってる感じ、といおうか。キャラクター皆のお約束とエッセンスを忠実に盛り込んでいるのが好感。そして、そんな『クレヨンしんちゃん』の世界を基盤に、パラレルワールドなSF作品の要素が融合している。ドラえもんの劇場版で定番の、あのちょっと怖い感じが懐かしい。最近の子供向け作品にはない不穏な空気がある(パンスト団の登場シーンの恐ろしさよ)。

 あとは、90年代の空気。バブルの匂いがする女性陣、平和と繁栄を疑わない「日本社会」の日常、そして、規制の甘い不道徳で猥雑なジョーク。「目的のためなら手段を選ばない冷酷非情なホモなんじゃ」と紹介されるTバック男爵とか、今じゃLBGT団体のクレームを恐れて無理だろう。しんのすけがちんちんを出すのも昨今封じられているので新鮮。

 好調なスタート。あと22個も楽しみ。
   

2016年11月27日日曜日

甘い生活


 イタリアの伊達男が美人をコマし享楽的に生きる話。
 1960年作品。監督はフェデリコ・フェリーニ。

 予備知識なしで観ると展開は意味不明で、3時間の長尺はしんどかった。だが、楽しむべきポイントは幾つかある。まずは主演俳優(マルチェロ・マストロヤンニ)の佇まいがクール。落ち着きと余裕を漂わせるダンディズム。イタリアクラシコなジャケットやシャツの洗練された着こなしも格好いい。女優では瀟洒なマッダリーノ(アヌーク・エーメ)、ウエイトレスの素朴な美人が2大巨頭。古き良きイタリアのロマンスが散発し、原初的な生きる歓びの風味を味わえる。

 ストーリーについては、wikipediaによると「1950年代後半のローマの豪奢で退廃的な上流階級の生態、その場限りの乱痴気騒ぎやアバンチュール、社会を生きる上で指針やモラルを失った現代人の不毛な生き方を、マルチェロの退廃的な生活を通じて描く」ということだが、ネット上の解説サイトを読むと、根源的な虚無を抱えた男が享楽に耽る、という主題があるらしい。ヘミングウェイフィッツジェラルドと同心円。男には虚無に至り、享楽や耽美で退屈を慰撫する時期が訪れる、というのは普遍的な現象なんだろう。

 沢山観るとお洒落な人になれる。そういう種類の映画かと。
   

2016年11月24日木曜日

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ


 男には『くも漫。』なら、女にはこれだろう。己の生き恥をエンターテイメントな人生の指南書に昇華したエッセイ漫画その2。

 28歳時点での作者の回想が綴られるが、摂食障害や非定型うつ病の当事者の世界観といおうか、メンヘラ女子の内面世界の生理感覚といおうか、外部から観察するだけでは分からない心理状態の描写が多い。根源的な不安と性的な身体接触の渇望には親和性がある(筆者個人はオキシトシンの分泌の問題だと思う)。

 たぶん、読む前に期待するエロい描写よりも、社会不適合で情緒不安定な若年女性の心理描写がメイン、というのは前評判の通り。そこに価値を見出せる人であれば楽しめるだろう。自己嫌悪と希死念慮を抱えた作者に生きることを選ばせたものが何だったか。そういうのを考えるのが好きな人には。

 エロに目覚めることが個人としての精神的な自立に繋がる、というのは何故なのか。映画『カッコーの巣の上で』を観た時も考えたが、そこには普遍的な真理があるように思う。世間や親や学校に押し付けられるもんじゃなく、自分の内側から芽生える歓び。自発性、身体性、関係性。そういうのが大事なのだ、きっと。
   

くも漫。


 29歳の元ニートの作者が臨時採用の教員となり、大晦日にはるばる挑んだ札幌ススキノの性風俗店でくも膜下出血を発症して救急搬送され、闘病する話。

 あらすじを読むだけで「oh…」と心の中で悲痛な叫びが上がるほどの切なさ。生き恥の極地であり、もう何と言ってやればいいかわからないくらいの残念さだが、主人公(兼作者)の残念なキモさと共に、周囲の人々と織りなす何ともいえない温かみがある。

 同じ疾患でも妻目線でほっこり温かい『日々コウジ中』の対極にある…と見せて同一線上にあるというか、違った切り口で当時者の人生の真実が見える。教科書や実習だけでは学べないTIPSが沢山詰まっているので、医療関係者はいっぺん読んでおいた方がいいと思う。適切な医学的知識(主治医の解説付き)の記載があるのがニクい。

 個人的には「死んでしまいたいときには下を見ろ俺がいる。」というAV監督村西とおるの至言を思い出した。荒ぶる人生の海へと船出する若者達に是非とも勧めたい1冊である。

 これが人生だ。馬鹿野郎。
   

2016年11月23日水曜日

父と息子のフィルム・クラブ


 カナダの映画評論家である作者の息子が高校をドロップアウトし、学校教育を放棄する代わりにの週に3本映画を観て感想を語り合う…という3年間を過ごした記録。

 上映前には父親から作品についての解説があり、古今東西の映画の蘊蓄が個人的な思い入れたっぷりに語られ、観賞後の息子の反応に一喜一憂する。並行して、父と子それぞれの実生活の中で、性愛、職探し、自己実現など、生々しい現実の問題に直面し、葛藤したり傷ついたりする様が感傷を交えて叙情的に綴られる。そうして子は成長し、父子の関係も成熟していく。

 個人的にはかなり好みで、今年のベスト候補。自分の子供が人生に行き詰まったら是非これをやりたい。週に3回、好きな映画を共に観て、語り合う。情緒教育として、文化的な教養として、家族の関係構築として、最上の手段の一つであるように思う。

 ちゃんと勉強して、映画を沢山観たくなる。愛が溢れている本。
   

2016年11月17日木曜日

ファイトクラブ


 かなり好きな映画。久しぶりに観返したので、感想など。

 ネタバレせずに説明するのが大変で、早い展開と複雑な構成を初見で理解するのが難しい映画でもある。大筋を言うと、不眠症で目が死んでいる企業勤めの男が刺激的な自由人(タイラー・ダーデン)に出逢って振り回される話、ってことになると思う。

 まず魅力は役者のオーラ。イカれた自由人のタイラー・ダーデンを演じるブラッド・ピットの雰囲気が映画史上最強レベルに格好いい。服装、肉体、語り口、表情、間、全ての調和が生み出すイカれっぷりが圧巻。そして、エドワード・ノートンが演じる主人公の情けなさと、豹変するキレっぷり。二人のコンビが最高にクール。

 内在するテーマもいい。1999年の作品でありながら2001年の9.11のテロを予見していたとしばしば評される本作のテーマは、人を非人間化するグローバルな資本主義社会へのアンチテーゼ。睾丸の喪失や血みどろの殴り合いで露骨に男性性の表象が強調され、精神的に去勢された現代社会の成人男性の鬱屈と発露の衝動を描く。そして、死と直面することで際立つ生の一回性、創造のための自己破壊、痛みを能動的に受け入れることで見える世界、など、末期資本主義社会の処方箋になりうる思想の断片が散りばめられている。

 全体の基調はデイヴィッド・フィンチャーの王道。抑えた色調と、強烈な風刺を込めたブラックコメディ。ダークな空気の中で人間の情けなさと愛おしさが際立つ。ラストシーンは坂口安吾の『白痴』が重なる。文明に汚された価値観の禊。

 なんとなく、トランプが大統領になった時代背景も作品のテーマに重なる。華やかな消費社会の下に堆積する、言語化されていない民衆の鬱屈と暴力的な衝動の予感。資本主義がやり過ぎるとこうなるという怖いお手本。そんな映画。
   

2016年11月14日月曜日

ミノタウロスの皿 藤子・F・不二雄[異色短編集]1


 去年読んだやつの1冊目。SF色の強いダークなネタ多し。

 『T・Mは絶対に』が一番面白いと思う。ネット上でも議論されているが、伏線が回収されるものかどうか結局分からず気になる。『オヤジ・ロック』はネタも構成も好き。『コロリ転げた木の根っ子』の人間の暗部の描き方も個人的に好み。

 最近の子供の娯楽にはこういう毒が足りないと思うので、娘には小学生くらいで読んでほしい。
    
   

2016年11月11日金曜日

禁じられた遊び


 1952年フランスの映画。戦争で両親を失った娘のグリーフケア(悲しみの処理)の話。

 第二次大戦下のフランス、ナチスドイツに侵略された戦火のパリから逃れる途中で両親が殺された娘は、独りで野をさまよい、やがて田舎町に辿り着く。そこで出逢った少年と飼い犬の亡骸を埋める墓場を作るようになり…という話。

 筆者はアメリカの一部の専門家が頑張り過ぎて世界中に定着した一様な心的外傷の型が嫌いなんだが(『クレイジーライクアメリカ』に詳しい)、これはそうした傲慢な綺麗事の押しつけのアンチテーゼになりうる作品だと思う。辛い目に遭った少女に本当に必要なのはこれだろうな、という視点の提供。

 子役の演技は完璧で、主題歌の切ないギターのアルペジオも美しい。
 これはかなりお気に入りの映画になった。
   

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