2020年6月28日日曜日

ソナチネ


 北野武監督の映画。1993年作品。

 90分とコンパクトにまとまり、北野武の生死観と虚無が全面に出ている映画だった。暴力、性愛、そしてあの独特のユーモアセンスは、虚無の上に成り立っているし、その虚無ゆえに必要としているように思われた。カミュやヘミングウェイの感性が近いのかもしれない。生きていく上での絶望や孤独を受け入れ、退屈をまぎらわすための刺激を欲している。

 印象的なのは、唐突に挿入されるくだらない遊びのシーン。舎弟と興じるトントン相撲や落とし穴などの悪ふざけと、簡単に人が死ぬ凄惨なシーンの対比が深い印象を残す。芸人ビートたけしがテレビで提供してきた数々の笑いも、同じような価値観、同じような意匠の上に作られたんだろうと気づかされる。

 平成の空気、沖縄の異国情緒、エクソシスト風の久石譲のBGMが組み合わさって、いい感じに調和していた。北野武監督の映画をもっと観たくなった。
   

2020年6月26日金曜日

カエルの楽園2020


 百田尚樹『カエルの楽園』の続編。2020年6月発売。

 前作と同様、動物で戯画化されたカエルの楽園ナパージュに降りかかる災禍の顛末を通して、2020年の日本の国難を描いている。コロナ禍、経済禍、国防の問題の本質が小学生でも理解できる寓話に仕立てられ、2時間もあれば読める。お人好しで善良なツチガエルが狡猾で凶暴なウシガエルにしてやられる様を見て、目先の利益に欲をかき、同調圧力に負けて国を滅ぼす日本の構造がよく分かる。

 本書の原案は新型コロナウイルス流行に関連する自粛期間中に、作者が短時間で書き上げたもの。本作で取り扱う時事はリアルタイムで進行中の事象であり、作者が今後の日本の進みうる選択肢を予見し、3つのエンディングを書き足している。小説としてはエキセントリックな構成だが、読者への現実認識と思考を促し、作者の意図は十分に果たしているといえるだろう。

 無条件に他者の善意を信じるお花畑な思考では、悪い奴に大切なものを奪われる。本作のグッドエンディングに近づけるよう、現実世界でのプロメテウス(安倍首相)の覚醒を望む。
    

2020年6月25日木曜日

動物農場


 英国作家のジョージ・オーウェルの『1984年』と並ぶ代表作。

 1919年のロシア革命の顛末を動物で戯画化して描いた、コンパクトな中編小説である。知恵のある豚が農場主を追い出し、平等を重んじる思想に基づき農場の支配を強め、やがて体制は腐敗していく。ソ連における共産主義政権の歴史がなぞられており、その骨子が動物を使って分かりやすく描かれる。原典の初出は1945年だが、その後のカンボジアのポルポト政権、今なら中国、北朝鮮の権力構造にも通じる。

 長らく手元に置いてあったのだが、読みたくなったのは百田尚樹の『カエルの楽園』を読んだからだったか。登場人物を動物に置き換え、警告の内容を平易な語り口の寓話に仕立てるのは、リテラシーの高低にかかわらず老若男女に訴求性があり、時代を超えて有効な手法なのであろう。共産主義思想が生み出す人為的な地獄の本質が、小学生でも理解できる。

 時代を変える力を持った物語という感がある。不朽の名作だ。
   

2020年6月19日金曜日

マイケル・ジョーダン:ラストダンス


 1998年のNBAファイナルで伝説となったマイケル・ジョーダンのラストショットと、直後の引退へと至る軌跡を追ったNETFLIXオリジナル、ESPN制作のドキュメンタリー。全10話。

 バスケットボールを知る者にとって、マイケル・ジョーダンは特別な存在である。1990年代に彼が中心となって達成したシカゴブルズの2度のNBA3連覇(スリーピート)などの実績もさることながら、プレーや立ち居振る舞いの圧倒的な格好よさは類を見ない。跳躍力、シュートの技術、ここ一番の勝負強さを見れば、バスケ通の玄人から一般人まで誰もが鮮烈な印象を受け、心を動かす。

 本作はジョーダンの個人の物語としても味わい深いが、それ以上にシカゴブルズというチームの物語でもある。憎まれ役の経営者ジェリー・クラウス、名将フィル・ジャクソン、盟友スコッティ・ピッペン、悪童デニス・ロッドマンやいぶし銀なスティーブ・カーらの個性が光り、化学反応が生まれる。一人一人の人物の辿った歴史を掘り下げ、背景に迫っていくことでその味わいは増していく。当時のライバル達や記者など関係者達のインタービューも豊富で、贅沢な作りである。

 個人的な感想として、ジョーダンの偉大さも勿論だが、90年代のブルズやジョーダンにまつわる壮大な物語は、決してジョーダン一人でできたものではないということ。個性の強いチームメイト達やライバル達、世界中のファンやジャーナリストなど、共に熱狂し、反目し、時代を共有し、戦った全ての人たちのものである。バスケットボールという競技を通して、ここまで多くの文化・経済活動・物語が生まれたという事実を思うと、胸が熱くなる。 

 全10話の作品を見るのは久々の長丁場だったが、全く苦にならず、素晴らしい時間だった。以前、紹介したDVD『His airness』の10倍の質と量だと考えて差し支えないだろう。
     

2020年6月6日土曜日

自由を守る戦い 日本よ、ウクライナの轍を踏むな!


 日本在住のウクライナ人であるナザレンコ・アレンドリー氏の講演を元にした書籍。2019年発行。氏は1995年生まれで、本書の出版時点で24歳の若者。日本語は堪能である。Twitter上で見る限り、酒と女を愛しており、人間的なバランスも良い。嫌いなのは共産主義だ。

 内容は主に国家のアイデンティティと独立についての主張。祖国ウクライナの歴史を紹介し、2014年にロシアにクリミア地方を奪われるに至った状況に、現代の日本が置かれた状況は酷似していると警鐘を鳴らす。他国へ国防を依存する危険性を指摘するとともに、自国文化の喪失、歴史の改竄、移民を受け入れるリスクが説明され、中国・南北朝鮮・ロシアが用いる侵略手法は標的国は違えど同種であることがよく分かる。共産主義政治がもたらす実害についても詳しく書いている。

 著者は日本の国民性を愛しており、古事記のウクライナ語訳を出版を企図しているという。日本国外にルーツを持つ者から見ての日本の特徴、強み、脆弱性に関する着眼と洞察は鋭く、シンプルで強靭な論理が主張を貫き、読んでいて心地よく腑に落ちる。770円で手に入り、79ページと薄いが、内容は濃くコストパフォーマンスが大変良い。日本の状況を憂う愛国保守の心情を持つ方にはぜひ一読してほしい。
   

2020年6月4日木曜日

テセウスの船


 職場の上司が熱く薦めてきたため1巻を購入し、読み始めたら止まらなくなってしまい一晩で読みきってしまった。原作の漫画は全10巻。2017年~2019年モーニングで連載。今年、竹内涼真主演でドラマ化されていた。

 1989年(平成元年)の夏、北海道の音臼村という場所で小学校の児童ら21人が殺害される無差別殺人事件が起きた。主人公は犯人として逮捕された警察官の息子で、加害者家族の視点から物語は語られる。2017年、すでに社会人となっていた主人公は、父の冤罪の可能性を探るために調査を始め…というのが筋。

 『金田一少年の事件簿』や『ひぐらしの鳴く頃に』のような雰囲気があり、猟奇犯罪と謎解きを含むサイコホラーなミステリー作品である。実在の事件に材をとっていることがうかがえるが、いくつかの素材がコラージュされている。ネタバレは避けるが、時間SFの要素もあり、なかなか贅沢な作りである。なお、原作とドラマでは真犯人が違うらしい。

 よくよく考えると、1990年代に流行り、たくさんあったような娯楽作品ではある。久しぶりに読んだことで新鮮な刺激を味わえたのかもしれない。2020年代、リバイバル来るか。
   

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