2013年6月28日金曜日

ブエナビスタソシアルクラブ


 キューバの老ミュージシャン達が発掘され、再結成し、大舞台で演奏して観衆を沸かせるというドキュメンタリー映画。

 物資不足で老朽化が目立つハバナの街並には似つかわしくなく、町行く人々は楽しそうだ。その謎の答えを、音楽という一つの道に生涯を捧げ、晩年に至った老賢達の渋い笑みが教えてくれる。

 筆者も昨年キューバに行ったが、その辺歩いているおっちゃんは大体あんな感じ。金はなくとも、贅沢品はなくとも、葉巻と音楽と恋心があれば人生は楽しいのだという、シンプルで普遍的なメッセージがそこにはある。
 
 いい映画だと思うが何回観ても途中で眠くなるため、通しで全部鑑賞できたことはない。
   

アラジン


 娘の情操教育にDVDを買ったため小学生の時以来久しぶりに観たが、やはり素晴らしい映画だった。

 アラビアンナイトの世界の異国情緒。身分違いの男女のロマンス。奸臣ジャファーとの戦い。陽気な魔神ジーニー。エンターテイメントの黄金律が凝縮されている。

 今観るとテーマは「自由」だったのか。主題歌のA whole new worldはしっかり主題歌している。恋人と共に魔法の絨毯に乗って飛び回る星空。囚われの身から自由へ。そのイメージは生きる歓びを目一杯体現している。

 日本語吹き替えは羽賀研二のアラジン、山寺宏一のジーニー、毛利小五郎のイアーゴ以外考えられない。特に山ちゃんが圧巻。
  

2013年6月22日土曜日

青い春



 1990年頃の不良漫画の短編集。
 ろくでなしブルースや湘南純愛組のような情熱やカタルシスはなく、ただひたすら下品で、無気力で、全編を覆う倦怠感に息が詰まる。岡崎京子作品に近いものを感じる。

 好きなのは「しあわせなら手をたたこう」と「夏でポン」。
 純文学って感じ。
   

2013年6月15日土曜日

ヨブ記


 正しい人に悪いことが起こる『義人の苦難』が主題の旧約聖書の諸書の一つ。

 神を畏れ敬い、家族や牧畜を富ませ、清く正しく潔白を守り、ひたすら正しく生きるヨブという男がいた。「ヨブほど正しい人はいない」と言って自慢する神に、サタンが「あいつの財産を奪って追い込めば、きっと神を呪いますよ」といちゃもんをつけ、「OK. じゃあ試してみろ」という神の気まぐれで、ヨブが無慈悲に追い込まれる。

 子供が死に、財産を失い、皮膚病に罹り、あらゆる災難に見舞われ、打ちひしがれたヨブは友人らと論争する。「なんで正しく生きてきた俺が、こんな目に遭わなきゃならんの?」と。

 オチは「神は人間の理解を超えているから、それでもひたすら祈るべきだ」という若造(エリフ)の助言に従い、祈り続けると神が赦してくれて、追い込まれる前よりいっそう富むというもの。

 SF作家のテッド・チャンは最後にヨブが救われるのは納得いかないと言っている。曰く「もしこの話の作者が美徳は必ずしも報われるものではないという考えを本気で主張しようとするなら、話の結末でヨブはすべてを奪われた状態のままでいるべきではないだろうか?」(この本の作品覚え書きより)

 胸クソ悪くなる物語だが、人生の不条理に挑むための良き教典である。
  

2013年6月5日水曜日

マルドゥック・スクランブル



 少女娼婦のバロットがネズミ型万能兵器のウフコックらと共に欲望と悪徳が渦巻く産業都市(マルドゥック・シティ)の暗部と戦う。かつて都市の病理に踏みにじられ、事故に見せかけて殺されかけたバロットは再び生きるために、軍事技術によって生み出され、戦争の終結によって廃棄の寸前に追い込まれたウフコックは己の有用性を証明するために。作者の冲方丁曰く「少女と敵と武器についての物語」。

 ジャンルとしてはSF小説。扱うテーマは実存。特に後半のカジノシーンは圧巻であり、その展開は鳥肌もの。衒学的な会話もいい。そして、文庫版の作者あとがきや鏡明の解説にも物語への愛が溢れている。

 筆者が大学生の時に出会った、最も好きな物語の一つである。不適応者が掴む適応の物語。込められた作者の情熱や思念が、読む者に力を与える。ぜひ多くの人に読んで欲しい。   
    

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