2018年1月26日金曜日

SENSE

 2010年12月発売のミスチル16thアルバム。

 暗い海の底から浮上した魂が、果てなき海の広さを知り、水平線の彼方を目指す。海というイメージから連想されるミスチルのアルバム作品として、『深海』や本作を思い出すのが正しい。ミスチルの作品群の解題において、海というモチーフは重要な位置を占めることに異論はないだろう。(e.g. 深海、paddle、here comes my love…etc.)

 構成は、#1 I の我執に囚われた世界から、様々な遍歴を経て次第に魂は浄化し、#11 foreverの諦観に至る。アルバムのキーチューンである#2 擬態には、酸いも甘いも噛み分け、無心に近づこうとする禅的な男の達観がある。ワンピースとのタイアップから生まれた#9 fanfareから海の視覚的イメージの着想は生まれたのかもしれない。これまでの遍歴を総括し、励まし勇気づける#10 preludeもメッセージソングとして感動的。そして、静かに自省する#8 蒼の存在感もいい。

 発売前に一切の情報が伏せられており、作品の見せ方もインターネットの発達で情報が氾濫した世界に対するアンチテーゼになっていた。その真髄は不立文字。Don’t think, feel.  言葉ではなく感じろ、ということ。命をも奪う残酷さをもつ海で、生を歓び泳ぐ鯨のイメージ。

 実家にこもって国家試験の勉強をしているときに聴きまくった1枚だった。生きる力を与えてくれた。

2018年1月20日土曜日

深海


 1996年発表のミスチルの5thアルバム。

 好き嫌いが分かれると思うが、往年のファンの間ではダークな色彩の強い名盤として知られる。#1 Diveと#2 シーラカンスの重く暗いプログレ・ロックの色が強い冒頭から始まり、去った恋人への哀惜を綴る#3 手紙、シニカルな#4 ありふれたLove Story、在りし日の純情の残光のような#5 mirrorへと続く。創作の遊び心と歓びが発露する#6 making songs、#7 名もなき詩、厭世的な#8 So Let’s Get Truth、#9 臨時ニュース、#10 マシンガンをぶっ放せを経て、喪失と混沌の中で苦しむ#11 ゆりかごの見える丘からと#12 虜、救いを祈る#13 花と続き、最後は死を予感させる#14 深海で終わる。聴きながら書いている今も、完璧な構成だと思う。

 制作していた背景についても少し。1994年のイノセントワールドでMr.Childrenは大ブレイクし、彼らはかつて望んだ栄光の絶頂にいた。ミリオンヒットのCDを連発し、数々の日本記録も樹立。全国のスタジアム級の会場をまわるビッグツアーを行い、連日マスコミに祭り上げられる喧噪の中で、当時20代の中頃を過ぎたばかりの桜井和寿は何を思っただろうか。妻子をもっていた桜井はこの時期にモデルと不倫し、離婚し、やがて1997年の活動休止に至っている。このアルバムは多くの製作陣のスタッフにコントロールされて生み出された創作ではあるが、その随所に、現実に倦み、死に魅せられ、苦しみ毒づく桜井の暗部が宿っている。そして、その生々しいほどのリアリティが暗い輝きとして結晶し、本作の音楽作品としての価値を高めている。

 イノセントな世界から遠く離れて、深い闇の底に沈み込む若き男のメンタリティ。そんなことを考えながら、今改めて聴くと味わい深い。この地点を経て、彼らは後の作品群に辿り着いたのである。
  

2018年1月19日金曜日

here comes my love


 本日、突如配信による販売がアナウンスされたミスチルの新曲。
 ドラマ『隣りの家族は青く見える』の主題歌。 

 歌詞世界からは、茫洋と果てしなく広がる海を泳ぐ男の姿が浮かぶ。風雨にさらされ、波に揺られ、ぬか喜びと幻滅を繰り返し、疲弊し、幾度となく自己不信に陥り、挫けそうになりながらも、諦めることなく手足を動かし続ける男の意識に浮かぶ思考の断片。『深海』と『SENSE』の世界の延長上で、今もなお、孤独に大海原を泳ぎ続ける男は何を想うのか…。

 多くの葛藤を経て、自身の愛を”Here comes”と(やって来たよ、というニュアンスで)届けようとする、長い年月の果てに辿り着いた肯定的な愛の歌。ずっと聴き続けてきたファンにはわかる符合が多くある。早くアルバム出ないかな。
   

2018年1月18日木曜日

ヨットクラブ


 サイコホラーな感じの短編集。デイヴィッド・イーリイ著。
 原作は1960年代の作品だが、日本語版は2003年初出。

 日常の延長に潜む狂気を描くブラックユーモアな作品多し。有閑階級の秘密を描く表題作の『ヨットクラブ』が傑出しているが、万能人な宇宙飛行士の破局を描く『カウントダウン』もいい。他、市井を生きる人々の偏執、パラノイア、逸脱などを主題にした作品が並ぶ。

 こういう毒の要素があると人に対する洞察力に深みが出るように思う。個人的にけっこう好きな路線である。
   

2018年1月3日水曜日

ジャージー・ボーイズ


 クリント・イーストウッド監督の2014年作品。1960年代に活躍したニュージャージー出身のポップスグループ、フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズの光と影を描く。

 早くも今年のベストには入れたい鑑賞後感。これは面白かった。DVD特典のドキュメンタリーでインタビューを受けるイーストウッドの風貌の老いは隠せないが、映画作品に関わる彼の美意識や感性は全く損なわれてはいない。表現を欲張りすぎず、見せ方の加減を知っている。本作などまさに名匠の至芸という感がある。

 若者達の苦渋、軋轢、栄光と喪失を経ての最後の場面に胸が熱くなる。
 映画をもっと観たいと思った。
   

2018年1月1日月曜日

ズートピア


 大晦日に家族で観た。2016年のディズニー映画。

 噂に違わず面白かった。幼稚園児の娘が2時間近く集中して楽しむことができる一方で、大人が観ても考えさせられる。動物を擬人化したアニメ映画を装っているが、扱っているテーマはアメリカという国を蝕む病理である。人種差別、隣人への不審、田舎と都会、フェミニズム…きっと、社会学的な風刺や意図を読み込む批評がはかどるだろう。

 映像も、脚本も、長年培ってきた超絶技巧を凝らした優等生な作品という風情。観客動員数を伸ばしつつ、批評家筋もうならせ、大人も子供も楽しめる、という贅沢な狙いをつけ、成功させた作品といえよう。笑えるし、考えさせられるし、観賞後の気分もいい。

 ひねった意見は出てこない。さすがとしか言えまい。
   
   

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