2015年8月15日土曜日

海辺のカフカ


 15歳の少年が家出する話。

 全編を通し、神話っぽい不条理さがある。『世界の終わりと~』で確立した(作者が味をしめた)二つの物語が交差する手法をとっている。ナカタさんのパートに出てくるジョニー・ウォーカーは皮剝ぎボリスに通じるものがある。残虐無比で暗い情熱を持った悪の象徴。図書館の司書・大島さんの「うつろな連中」あたりの考察もいい。

 わけのわからん話だが、小説の構成要素に思いを巡らせ、ストーリー展開に込められた意図を想像しながら読み進めると、読んでいて楽しかった。15歳の時に読んでも分からん気がするが、30近い今なら分かる気がする。これは少年が自身の闇と向き合い、痛みを伴って成長するイニシエーション(通過儀礼)の物語だ。なかなかいい感じだ。一人でしばらく筋トレと読書と音楽鑑賞をして暮したくなった。

 『ねじまき鳥』と並び好きな作品になった。
    

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?


 名匠フィリップ・K・ディックの哲学的な近未来SFの古典。1968年の作品。文庫版の表紙が格好いい。

 放射性物質で地球が汚染された近未来、主人公リックは人間社会に紛れ込んだヒト型機械(アンドロイド)を破壊することで懸賞金を稼いで生計を立てている。そんな彼に最新のネクサス6型のアンドロイドの抹殺の依頼が入り、、、という話。

 人 vs. 機械という単純なアクション活劇だけではなく、作り込まれた世界観が本作品の魅力。情調(ムード)オルガン、機械仕掛けの動物を飼い生身の動物に憧れる人々、マーサー教とエンパシーボックス、アンドロイドの人間性、、、などの舞台装置が示唆する隠喩は豊かで、読み込んだディープなPKDファン同士の議論に花が咲くのは容易に想像できる。

 まさに金字塔という感じがする。読んで損なし。
   

2015年8月11日火曜日

誰も懲りない


 虐待を受ける女の子と、その家族を描いた漫画。

 登場人物の屈折の仕方が妙にリアルで、細かな台詞や行動に違和感がない。創作の部分も大きいようだが、ネット上の情報によると、作者の実体験を交えているよう。現代社会のどこか目に見えない所に存在する心理的虐待の連鎖。タイトルの「誰も懲りない」が主題を言い当てている。業の深い人間達が、傷つけ合い、慰め合い、攻撃と欲望への逃避を繰り返す。その渦中には、この世の地獄を味わう高濃度の特異点がある。それが主人公の人生。

 こういう胸糞悪い物語は何のために存在するか。その生々しさが現実味を帯びる程、同様の体験を経た者にとっての救いになる。精神科医や心理士の想像力を補完し、診療におけるパフォーマンスを高める。事実を再構成して語り直すことで作者が救われようと試みている(ナラティブ・セラピー)。

 パーソナリティ障害が生まれる過程を学べる。その痛みの物語を。
   

2015年8月9日日曜日

逃げるは恥だが役に立つ


 経済的に困窮した主人公(20代女)が恋愛に消極的な文科系男子(30代男)と契約結婚をする漫画。タイトルは結婚についてのハンガリーの諺から(らしい)。

 基本は、実験的な共同生活を通して「結婚とは何か?」と問いかける。収入や支払いの共有や配偶者控除などの経済的な利点、家事の分担など実務的なメリットと、社会的な体裁や、うつろう恋愛感情の危うさに主人公達が思いを馳せる。雇用に関する社会学的な議論や草食男子の心理学的な考察も交えられる。

 登場人物ではプライドの高さ故に30代まで童貞のままの平匡さん(夫)と美人なのに処女のまま閉経してしまった百合ちゃん(伯母)が重要。女目線で構築された男の造形は甘いと思うが(汚さが足りない)、それはそれで女流漫画家の様式美とも言える。平匡さんに萌える女性層がターゲットと思しい。連載誌はKissだし。

 「金と仕事の問題もあるけど、やっぱ生身の人間が恋しいよね」という話になりつつある目下刊行中の5巻目。筆者はスキンシップが生み出すホルモン・オキシトシンに思いを馳せた。結婚はただの契約だが、共同生活することで情緒的交流が生まれる。

 ちなみに、結婚は最強の自殺予防因子の一つである。
   

2015年8月7日金曜日

NOVA 2


 日本人作家によるSF短編アンソロジーの企画『NOVA』の2冊目。好きだったのは以下。

•バベルの牢獄(法月綸太郎):お馬鹿でメタな本格SF。オチのトリックに頬が緩む。
•東京の日記(恩田陸):戦時下の東京と和菓子の味わい。儚げ。
•クリュセの魚(東浩紀):火星が舞台の優等生なジュブナイルのセカイ系SF。
•五色の船(津原泰水):異形の者達の伝奇物。東洋的な幻想世界。
•聖痕(宮部みゆき):ミステリ要素強し。罪と裁きに関する寓話。

 SFという縛りを活かしたり、まるでとらわれなかったり、それぞれの作家のスタイルで創造性を発揮している。書く側も、編集する側もなんだか楽しそう。読み慣れぬ作家との出逢いも楽しい。
   

2015年8月6日木曜日

日々コウジ中


 副題は「高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック」。
 40代でくも膜下出血を発症し、高次脳機能障害を呈した夫の話。

 日本の文化圏の強みはこういう漫画エッセイが存在することだと思う。ユーモアと日常の感覚を交えて、愛らしい絵とキャラクター達と共にストーリー仕立てで病気の当事者とその周囲の状況や経過を知ることができる。症状や病態、病院での急性期治療からリハビリを経て社会復帰までの流れ、社会福祉サービスの活用法、など当事者が経験する一連の内容を過不足なく、分かりやすく追える。

 実体験を漫画エッセイとして出版するという行為が、障害を負った夫の妻である作者の現実受容のための手段だったんだろう。辛い体験や未来への不安と逃げずに向き合い、事実を再構成することで希望を見出す。物語として語り直すことで作者自身の救いとなり、読み手に届けることで他の誰かの救済への祈りになる。最近読んでいたナラティブ・セラピーの本の内容を思い出した。

 うつ病の『ツレがうつになりまして』、統合失調症の『私の母はビョーキです』と並び、当事者や家族へおすすめできるクオリティ。高次脳機能障害に興味をもった方はまず一読を。きっと全体像が見えるはず。
   

2015年7月26日日曜日

3年目


 とはいえ、共感を強めることについて言えば、私たちの人間らしさを増すうえで、2000年前からとても成功している伝統がある。それは、人文科学を質の高い形で経験することだ。人文科学とは、文学、外国語、哲学、歴史、音楽、芸術といった学問で、今では「役立たず」と言われることもあるが、かつてはどんな教養人にとってもいわば共通通貨だったものだ。素晴らしい小説を読んだり、ソナタを聴いたり、ほかの文化や別の時代の理解を深めたりすることで、他者の頭の中に入り込むときにいつも、オキシトシンのシステムが調整され、高められることを私たちは思い出す必要がある。 
The Moral Molecule    Paul J Zack


・・・


 試みは今も続いている。

 多彩な物語に触れ、内容の理解に努めることは人間世界への洞察を深める最良の手段である。宗教の教典であれ、AV男優の立志伝であれ、日常系のほのぼの漫画であれ、歴史上の事件を扱った映画であれ、鑑賞する側の心持ち次第で、人間の本質に近づける。

 良質な物語に魅せられ、感情を動かすことで現実問題への対処能力を上げることができる。窮地を切り拓き、退屈と倦怠を脱し、挫折や失敗からの再起や、未知なるものへの挑戦の後押しをする。良質なナラティブ(物語)がレジリエンス(逆境を跳ね返す力)を生み出す。そんな理想は当初から変わらない。

 難しい話じゃない。
 選択に迷った時に、貴方の脳裏に浮かんだイメージや言葉の出所を辿るだけ。スラムダンクのワンシーン、ミスチルの歌詞、天地明察の「勇気百倍」、イチローのインタビュー、GIANT KILLINGの達海の指揮、ヘミングウェイの美意識、アルゴの大真面目な悪ふざけ、GOの杉原の理想、西原理恵子の痛烈なディスり、峰なゆかが斬る男女の自意識と現実。物語に出逢うことで人生経験を補完し、実体験と共鳴し理解を深める。清濁を併せ吞み、酸いも甘いも噛み分け、人の世の道理と心の綾を読む能力を安全に身につける方法なのである。生物学的機序においても、情緒的な観点からも、精神衛生上とてもよい。

 単純に言うと。
 「面白い本ある?」と言われた時に「それはね、、、」と取り出す最強の1冊。1枚でも、1本でもいい。好きな人に、弱っている人に、分かってない人に、困っている人に、心の底からお勧めできる最強の物語を準備するための試み。そのための伏線としてこのブログは続く。読んで、観て、書いて、金貯めて、調べつつ。10年続けば、今よりもっと形にできるだろう。

 というわけで、物語に出逢える理想のカフェ作りのため、このブログは続きます。
 暇な時に読んでください。



☆おまけ☆
カフェに置きたい作品100。
  1. プラネテス(漫画)
  2. スラムダンク(漫画)
  3. リアル(漫画)
  4. バガボンド(漫画)
  5. 幽々白書(漫画)
  6. レベルE(漫画)
  7. ハンターハンター(漫画)
  8. ろくでなしブルース(漫画)
  9. ROOKIES(漫画)
  10. ジョジョの奇妙な冒険(漫画)
  11. 孤独のグルメ(漫画)
  12. ピンポン(漫画)
  13. ピューっと吹くジャガー(漫画)
  14. 天使なんかじゃない(漫画)
  15. のだめカンタービレ(漫画)
  16. pink(漫画)
  17. 寄生獣(漫画)
  18. GIANT KILLING(漫画)
  19. ワンピース(漫画)
  20. アラサーちゃん(漫画)
  21. グラップラー刃牙(漫画)
  22. ニャ夢ウェイ(漫画)
  23. 岡崎に捧ぐ(漫画)
  24. 闇金ウシジマくん(漫画)
  25. キングダム(漫画)
  26. ドラゴンボール(漫画)
  27. ドラえもん(漫画)
  28. 神の雫(漫画)
  29. 失踪日記(漫画)
  30. 金魚屋古書店(漫画)
  31. うしおととら(漫画)
  32. からくりサーカス(漫画)
  33. 俺の空(漫画)
  34. サラリーマン金太郎(漫画)
  35. 三国志 横山光輝版(漫画)
  36. デビルマン(漫画)
  37. 東京大学物語(漫画)
  38. よつばと!(漫画)
  39. レモンハート(漫画)
  40. GO(映画)
  41. ショーシャンクの空に(映画)
  42. ファイトクラブ(映画)
  43. グッドウィルハンティング(映画)
  44. スラムドッグ$ミリオネア(映画)
  45. ゼロ・グラビティ(映画)
  46. 最強のふたり(映画)
  47. ノッキンオンヘブンズドアー(映画)
  48. シティ・オブ・ゴッド(映画)
  49. きっとうまくいく(映画)
  50. アメリ(映画)
  51. プラダを着た悪魔(映画)
  52. エンドレス・サマー(映画)
  53. ラブ・アクチュアリー(映画)
  54. ウルフ・オブ・ウォールストリート(映画)
  55. マッド・マックス 怒りのデスロード(映画)
  56. クワイエットルームにようこそ(映画)
  57. ダイ・ハード(映画)
  58. 魔法少女まどかマギカ(アニメ)
  59. 天空の城ラピュタ(アニメ映画)
  60. 千と千尋の神隠し(アニメ映画)
  61. 新世紀エヴァンゲリオン(アニメ)
  62. GO(小説)
  63. 映画篇(小説)
  64. レボリューション No.3(小説)
  65. ドクターズ(小説)
  66. 永遠の出口(小説)
  67. グレートギャッツビー(小説)
  68. ねじまき鳥クロニクル(小説)
  69. あなたの人生の物語(小説)
  70. マルドゥックスクランブル(小説)
  71. 天地明察(小説)
  72. 永遠の0(小説)
  73. 沈まぬ太陽(小説)
  74. 姑獲鳥の夏(小説)
  75. 魍魎の匣(小説)
  76. スローターハウス5(小説)
  77. 星を継ぐもの(小説)
  78. 69 sixty-nine(小説)
  79. 悪童日記(小説)
  80. 波の上の魔術師(小説)
  81. ヘミングウェイ短編集(小説)
  82. レ=ミゼラブル(小説)
  83. 罪と罰(小説)
  84. そして誰もいなくなった(小説)
  85. しあわせの理由(小説)
  86. 波の上の魔術師(小説)
  87. NOVA(小説 アンソロジー)
  88. 龍馬がゆく(小説)
  89. 水滸伝(小説)
  90. 100万回生きたねこ(絵本)
  91. 勝ち続ける意思力 梅原大吾(新書)
  92. 世界をだました男(ノンフィクション)
  93. スパイのためのハンドブック(ノンフィクション)
  94. フェルマーの最終定理(ノンフィクション)
  95. 冒険投資家ジム・ロジャース世界バイク紀行(ノンフィクション)
  96. ローマ人の物語 ユリウス・カエサル(歴史)
  97. 堕落論(評論)
  98. 銃・病原菌・鉄(評論)
  99. グラビアン魂(対談)
  100. 経済は「競争」では繁栄しない (科学エッセイ)
  

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