2019年7月27日土曜日

三体


 巷で話題の中国発のSF長編小説をついに読了。劉慈欣(りゅう じきん/リウ ツーシン)著。原作は2008年出版。英語版は2014年、日本語版は20197月14日に早川書房より発売。

 1967年、文化大革命の名の下に壮絶な知識階級への弾圧が行われる中国で、主人公の女性・葉文潔(よう ぶんけつ/イェ ウェンジェ)の父親の物理学者が紅衛兵に殺害されるシーンより物語は始まる。そして、現代パートと回想パートが入り混じりながら、現代社会で起きる不可思議な怪現象の原因とともに、人類が直面する未曾有の危機の正体が明らかになっていく…という話である。

 これだけ書くと世間に溢れる他のSF大作との違いがわかりづらいが、本作で特筆すべきは、中国人による、中国語で書かれた、中国世界の作品であるということにある。SFは本来、英語圏発祥であり、長年にわたり英語圏の作品(および作者、読者、作品世界も含め)が業界を牽引してきたが、本作は純正のメイドインチャイナである。舞台設定や登場する固有名詞が完全に中国語圏のそれであり、そして、内容自体が抜群に面白い。タイトルにも示されている通り、本作の核となるアイデアは天体物理学における難問として知られる「三体問題」に着想を得ており、精密に構築された世界観と衒学的な理論的解説を読みながら、知的興奮を味わえる。他にもVRのゲーム世界との往還や、悲恋やミステリ、人文科学的な思弁の要素もあり、娯楽作品として非常に贅沢な内容となっている。ヒューゴー賞をはじめ世界中の文学賞を総なめにしており、その面白さは折り紙つきである。

 科学技術や経済的な発展にとどまらず、文化や娯楽においても中国語圏の世界は進化している。良質なフィクションを堪能した若い世代は、やがて、さらなる高みを目指し創作を始めるだろう。長らくアジアの文化面を先導してきたという自負がある日本人としては悔しいが、この事実を認めなければならない。中国語圏の文化面での躍進は、本作を読めば疑うべくもない。

 これは全三部作の第一部に過ぎないらしい。続きが楽しみだ。
    

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