2019年7月4日木曜日

こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

   
 昨年、大泉洋主演で映画化になって再度話題になったので気になっていた。「介護関係者のバイブル」という宣伝文句も目にした。電子書籍のDolyを導入したのを機に買って読んでみたが、成程、これはバイブルにもなるわ、と思わず膝を打つほどの名作だった。

 進行性の神経疾患である筋ジストロフィーという疾患に侵された鹿野靖明という男性と、介護のために集まったボランティア人々の物語である。全身の筋肉が萎縮し、人工呼吸器に繋がれ、自身では寝返りもできない鹿野だが、世間一般の「障害者」のイメージとは異なり、ワガママで、惚れっぽく、寂しがり屋の変人だった。そんな型破りな障害者である鹿野氏の闘いの日々と、奇妙な縁で集まったボランティアたちの心情の変化が、ドキュメンタリー風の文体でだらだらと続く。

 本作は2004年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。作品の主題については、障害者のノーマライゼーション、というのが当てはまると思う。読みながら、『リアル』のヤマは鹿野と同じBecker型の筋ジストロフィーだったんだな、と遅ればせながら気づく。彼らは物言わぬ慈しみの対象ではなく、生々しい欲望や感情を持った普通の人間であるということ。世間の目の届かないところに押しやられた生者の叫びを、この作品では活写している。

 舞台が札幌で、部活の先輩も出演しており味わい深かった。介護関係者、医療関係者は読んでおくといいだろう。現場で直面する答えのない問いに、何がしかのヒントを与えてくれる。
    

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