2016年7月3日日曜日

イスラム国 テロリストが国家をつくる時


 2014年に原書が発行されたIS(Islamic state; イスラム国)について執筆された書籍の中では最新の部類に入るであろう本。作者は北欧諸政府の対テロリズムに関するコンサルティングや、国際的な対テロファイナンス会議の議長も務める経済学者。ISの成立の過程、目指すものは何か、従来のテロ組織の違いは何か、などを歴史的事実と照らし合わせながら概説する。

 ISという組織については、イラク戦争とシリア内戦を母体に生まれたこと、イスラム教スンニ派の過激派であること、厳格なイスラム法の適用を目指す集団(サラフィー主義)であること、カリフ制国家の復活を目標とすることは基本事項。Twitterや動画サイトなどのテクノロジーを利用して残虐なイメージを拡散し、世界中から支持者を集めているのが有名だが、特筆すべきは国家としての機能を持とうとしている点だと作者は主張する。冷酷無比なイメージが先行しがちだが、支配地域の病院や学校(多くは戦乱で荒廃している)などのインフラの整備を行い地域住民の心を掴む戦略や、決算報告書を用いた収支計算に象徴される堅実な財務基盤など、近代国家が持ちうる政治力や経済力を持っているという点が、従来のテロ組織とは異なるとする。TEAM OF TEAMSの作者の陸軍大将が指摘するように、新時代に適応した戦略を駆使するISに、前時代的なシステムで動くアメリカなどの大国は対処しきれていないように見える。

 この文章を執筆する時点で、日本人が巻き込まれたバングラデシュの事件などがあり、世界中でISによる無差別のテロが横行している。実は割と本気なんだが、筆者が本ブログを継続する動機には「ISに対する自分なりの答え」という視点がある。存在しない理想郷を求めて暴力を振りかざす人々の精神世界には、血の温もりが通った豊かな物語(ナラティブ)が足りない、と筆者は考える。異教徒間の争いの根幹にあるのは共通言語になりうる物語の欠如である。人が残酷になれるのは、対象となる相手の物語を無視するからである(ルシファー・エフェクトという本にも書いている)。暴力的な手段により争い傷つけ合うのは、映画の感想を共有して誰かと楽しくお喋りしたり、漫画や小説を読んでまったり過ごす穏やかな休日の対極にある。

 少なくともこれからの数年間、地球上のどこに住んでいてもISの脅威は私たちの日常生活に忍び寄って来るだろう。その行動原理と実体について知識を持っておくことは、自己防衛のための最低限の対処法である。
   

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