2016年6月25日土曜日

陽だまりの樹


 幕末から明治維新にかけての激動の時代を、好色家の町医者・手塚良仙、一本気な熱血漢の武士・伊武谷万次郎の二人を軸に描く歴史絵巻。緒方洪庵、福沢諭吉、勝海舟、西郷隆盛など幕末のヒーロー達も登場し、それぞれが存在感を放ち格好いい。教科書や小説では味わえない、当時の時代の空気を絵物語で追体験できる好著である。

 どこかのレビューで読んだ気がするが(漫画HONZだった気がする)、主人公の二人は、後半の台詞にある「歴史にも書かれねえで死んでったりっぱな人間がゴマンと居るんだ」という生き方を体現した人物。家名に萎縮し女色に溺れる良仙も、揺らぐ武士の価値観に葛藤する万次郎も、いずれも不完全な人間であり、多くの困難や悲しみに遭遇しながら混迷する時勢の中で足掻き続け、一人の人間としての生を全うしようとする。歴史的考証と人間ドラマが高いレベルで融合し、豊穰な物語を形成している。

 『アドルフに告ぐ』を抜いて、個人的に好きな手塚漫画ランキングでは首位に立った。大人になって歴史物の興趣が分かるといっそう好きになるだろう。

 しかし手塚治虫は神だな、という想いが読んでいて改めて湧き上がった。半端ないっす。
   

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