2021年12月30日木曜日

ゴールデンカムイ


 大正時代の北海道を舞台に冒険する漫画。既刊28巻。
 まわりに奨められて夏頃から読んでいた。

 日露戦争の帰還兵の杉本佐一は、北海道で砂金採掘をしている途中で、あるアイヌの男が大量の黄金を隠したという噂を聞く。網走監獄にいた「のっぺらぼう」という男が、黄金の在処を示す暗号として、囚人に刺青を掘ったという。杉本は隠された黄金を求める中で、アイヌ、帝国陸軍などの戦力が入り乱れ、北海道を舞台とする激しい戦いに巻き込まれていく。

 暗号解読を目指し、財宝を巡り幾つもの勢力が争いを繰り広げるという筋は、娯楽作品としては定番だが(思い浮かんだのは『クリプトノミコン』)、本作ではいくつもの独特のエッセンスが加わる。日露戦争前後の日本および北海道の歴史、自然描写、アイヌの民俗文化やグルメ、猟奇犯罪が組み合わさっていく。内容は重いようで、けっこうキツめの下ネタや、悪ノリが過ぎるおふざけが箸休めになる。

 『鬼滅の刃』なんかもそうだが、徹底した時代考証および文化風俗の交渉、キャラクターの背景の作り込みをしてから、長編の物語を書くのが最近のトレンドなのか。後半明らかになる、物語の伏線や、仕込みにも唸らされる。精緻に準備された舞台の上で、交錯する登場人物たちのドラマが際立つ。敵も味方も魅力的な人物が多いが、個人的に推すのは、優しそうな風貌でいて、実は最も冷徹でイカれてるウイルク。

 現在ヤングジャンプで連載中の物語も佳境で、2022年末頃には終わりそうだ。最後まで読むのが楽しみな漫画である。この時代に生きられる幸せを感じる。
 

2021年12月29日水曜日

ポリス・ストーリー/香港国際警察


ジャッキー・チェンの代表作の一つ。1985年作品。

1980年代の香港を舞台に、主人公のジャッキー・チェン扮する刑事が麻薬組織のボスを捕まえるために奮闘する話である。派手なアクションの大捕物、恋人や敵方の女との微妙な関係、仲間の裏切りや友情、などが含まれる。コメディ・色恋・身体能力・勧善懲悪を楽しめるザ・娯楽映画という風情である。

内容については、全体に粗雑な時代だったんだなあ、と感慨。性に関しても、人を侮辱する笑いに関しても、コンプライアンス的な縛りをほとんど感じさせず、良くも悪くも下品でおおらかである。1980年代は世界的にそんな雰囲気だったんだろう。危険を顧みず撮った派手なアクションは見応え抜群ではある。撮影中に大怪我が多発したのは確実だと思われるが、今だったら許容されるのだろうか。

古き良き香港映画の様式美を楽しめる、王道的映画であろうと思う。1980年代の時代の空気、香港の空気が保存されていることにも価値がある。深く考えずに観たが、思いのほか得るものは多かった。
   

2021年12月27日月曜日

司法試験予備試験 完全攻略本


 LEC東京リーガルマインドより出版。同社講師の柴田 孝之が著者。
 2014年(平成26年)発行。

 諸事情により司法試験に挑むことにしたので、その戦略策定にあたり、1冊で全体像が把握できそうな本書の電子書籍版をジャケ買い(タイトルで選んで購入)した。

 内容は期待通り。500ページ超とボリュームが多いが、概ね必要十分で満足できた。大学の法学部もロースクールも関係のない素人が、予備試験ルートで司法試験合格に挑むまでのイメージが掴める。前半は試験制度の解説、法律学習の概要、学習のコツと注意点と来て、ラストに旧司法試験と予備試験ルートの新司法試験の2人分の合格体験記がついている。これを一冊読めば、司法試験の戦いに挑むための準備は整った、という気分にさせてくれるだろう。実際、特に質の悪い部分は思いつかない。著者の(予備校講師然とした)軽妙な語り口が人を選ぶくらいだろうか。

 司法試験の受験は物語である。厳しい試験であり、多くの人が人生を賭けて挑み、様々なドラマが生まれる。本書は単なる資格受験の指南書のようでありながら、描かれなかった膨大な数の人々の辛苦が宿り、威厳を与えるように思う。読んで身が引き締まるとともに、自分の頭脳ひとつで人生を変えようという、大学の医学部受験に似た情熱を思い起こさせた。

 いつかどこかで語るかもしれないが、10年間このブログを書き続けたのは、司法試験に挑むための下準備だったような気がしている。試験勉強の日常や所感を記録する別のブログを始めたので、興味がある読者はそちらを参照されたい(リンク)。
   

2021年11月22日月曜日

進撃の巨人(漫画)


 今年6月発売された34巻で完結。別冊マガジンで連載していた。
 Netflixのアニメから入ったが、ファイナルシーズンの途中で電子書籍をDollyで購入し、iPadで一気読み。

 豊穣な物語である。内容は世界文学の水準にあると思う。北欧神話に材を取っているらしく、壁、巨人など、登場する要素は神話めいている。ストーリーについては、これから読む人のためにネタバレしないように気を使うため、説明が難しい。とりあえず、壁の向こうにいる巨人と戦う話であると認識しておけば間違いない。

 原作である漫画は、前半は画力がイマイチだったり、キャラクター造形に独特のクセがあるため、初読者のハードルは高いように思える。だが、途中何度も山場があり、己の認識が180度転換するような場面がある。私はアニメ版から入ったが、進行は概ね同じであり、展開に衝撃を受ける。人類VS巨人という単純な構図かと思われた物語が、その世界の全貌をやがて現し、読者を深い思弁へと誘う。

 作者はどの段階でこの物語の構想を完成させていたのか?
 途中、驚きっぱなしで、考え続けたが、無論、最初からである。世界を完全に構築し、物語の時間軸や人物造形を全て定めてから、描き始めている。緻密に張り巡らされた伏線にも唸らされるが、設定だけではなく、テーマが切実で深い。人は何故争うのか、を示し、人間にとって何が大切か、を教えてくれる。民族紛争、人種差別、少年兵の悲劇など、普遍性があるテーマが多数登場。反出生主義を扱う部分もある。 

 今年は『進撃の巨人』に出会えた年として、自分の中で記憶に残るだろう。コロナ禍の出口のない不安に苛まれる日々の中で、物語に没頭することができた。エレンや、リヴァイや、ジャンやライナーやベルトルトの心境に思いを馳せた。この作品を観た人と、じっくりと語り合えれば楽しいことは間違いない。個人的には『スラムダンク』や『ハンターハンター』級の人生に影響を与える作品だった。ただただ読めて幸せだった。
 

2021年10月30日土曜日

白夜/おかしな人間の夢


 ドストエフスキーの短編4本入りの文庫本。
 光文社古典新訳文庫。2015年発行。安岡治子訳。

『白夜』
 表題作になっている中編小説。副題は「感傷的な小説(センチメンタル・ロマン)」「ある夢想家の思い出より」。内気で空想癖のある(陰キャな)20代の青年が、白夜の夜に街を散歩しているときにワケありな女性に出会い、恋をした数夜の顛末。ドストエフスキー27歳頃の1848年に発表された小説で、主人公の青年は若き日の作者の投影が少なからずあるだろう。狙ってやってる部分もあろうが、全体に青臭い内容。深く心に突き刺さりはしない。

『キリストの樅ノ木祭りに召された少年』
 ごく短い短編。『マッチ売りの少女』や『フランダースの犬』のような、可哀想な子供を描いた児童向けの童話という風情。晩年の『作家の日記』という連作に登場した作中作らしい。本編収録の作品の中では一番好き。

『百姓のマレー』
 無知で粗野な農奴の善性について考察する、上から目線な回顧形式の作品(時代背景を考えると、悪気はないと思うが)。こちらも『作家の日記』に登場。これもまあまあ好き。

『おかしな人間の夢』
 副題は「幻想的(ファンタスティック)な物語」。自殺を図った男が、キリスト教的な幻想に満ちた世界を旅する。ドストエフスキーが晩年たどり着く、このキリスト教的な愛の理想が、何回読んでもどうもしっくり来ない。結論ありきというか、押し付けがましいと言おうか。いつか分かる日が来るのか。

『一八六四年のメモ』
 ドストエフスキーの最初の妻(マリア、マーシャ)が亡くなったときに書いたとされる、思弁のメモ。これもキリスト教どっぷりな思考回路が、どうも自分にはしっくり来ない。キリスト教価値観が支配する世界に生まれ育つと、必然的にそのような思考に辿り着くのか。まだ私にはわからない。

 全体の感想。
 若い頃のドストエフスキーは、比較的凡庸な作家だったと思う。貧困層への憐憫、キリスト教的価値観に基づく愛などの理想はあったが、その表現も、理想も、凡庸で他の作家を抜きん出ることはなかったように思う。1848年頃のてんかん発病、ペトラシェフスキー事件に連座しての逮捕、死刑宣告、シベリア送りなどの過酷な苦難を経験する中で、その思弁にハードなヤキが入り、人類史を代表する偉大な作家として仕上がっていったんだろう。その原型を見ることのできるのが本作の収録作品であるが、単体で楽しんで読めるかというと、あんまり、、、な作品が多かったというのが感想。偉大な作家の足跡を追うのは楽しいことではあるので、興味のある人は読む価値はあると思う。
 

2021年10月24日日曜日

シリコンバレー式 自分を変える 最強の食事


 アメリカでベストセラーになった健康になるための食生活の指南書。原題は"THE BULLETPROOF DIET"(防弾の食事という意味)。 英語版は2014年、日本語版は2015年発行。電子書籍版をDollyで読了。

 作者のデイブ・アプスリー氏は米国のIT企業家で、社会的な成功を収めたが、長年体調不良に悩まされていた。そんな彼がバイオハック(生体を研究して攻略すること)に挑み、長い試行錯誤を経て、自身の体調を整える食事の黄金律を見つけるに至る。そんな彼の知見をまとめたのが本書である。

 私が読んでいる高城剛氏のメールマガジンでよく言及されるので読んでみたが、医学的な観点から見て、合理的な内容が多いように思えた。現代人は炭水化物を取りすぎで、適度に減らすと体調が良くなる、というのは自分でも実践して実感するところである。高脂肪、高タンパク、低炭水化物、朝のバターコーヒー(MCTオイル入り)などが本書が紹介する食事の売りである。背景理論については内容を参照されたいが、ざっくり言うと、体内の炎症を減らすことに重きが置かれている。

 ただし、作者のアメリカンな思考様式、豪快で繊細さに欠けるスタンスでは気になる。日本食への造詣は深くないようで特に触れられることはなく、他国の伝統的な発酵食品などについても、疑わしきは排除、という記載が引っかかる。万人に安全な食事法を伝える入門編としてはいいかもしれないが、日本食を含め、各国の伝統食品の愛好者は反論したくなるだろう。納豆や梅干しの力で驕ったメリケンの安全神話に一泡吹かせてやりたい、考えるのは自然なことであろう。

 などと思いつつ、体質は各人によって異なるものであり、遺伝子によって解毒の得意不得意もあるので、それぞれ自分に合った食事を見つけましょう、という助言が添えられており、全体としては学術的に誠実で好印象である。食事の見直しによって体質改善を図る端緒とするための好著と言えよう。部分的であれ実践すると、昼に眠くならない、日中のだるさが消える、など体調が良くなるのを体験できる(実体験)。

 なお、本ブログでこの本を紹介するのは、作者の生き様に物語を感じたからである。IT長者が食と健康の伝道者になるというストーリーは、面白い。
 

2021年10月8日金曜日

チェンソーマン


 『ルックバック』と同様、藤本タツキ作。2019年から2021年まで週刊少年ジャンプで連載。既刊11巻(第一部完結)。

 内容は最近ジャンプで流行りのダーク・ファンタジー。舞台は悪魔が存在する世界。親が作った借金を背負い、劣悪な環境で暮らす主人公の少年デンジが「チェンソーの悪魔」であるポチタと融合し、悪魔と戦う。既存の道徳を嘲笑うようなエグい展開、グロとエロが溢れているのが特徴的。

 一回読んでよく分からなかったが、考察動画などを観て、二週目を読んで傑作だと思った。絵が多くサクサク読めるが、設定が込み入っており、説明が少ないために、一回でストーリーについていくのが難しい。作画や構成力は抜群に良く、何気ない構図や台詞に伏線が仕込まれており、多くを語らずとも、徹底的に作り込まれた世界観、展開であることが伝わってくる。

 テーマは愛だろうか。ダークな世界で描くことで際立つ美しさがある。『ウシジマくん』の作者が言っていた「激辛の奥の旨味」のような感覚。中学生くらいの頃に読むと、心に一生残るであろう深みがある。少年誌のコンプライアンスぎりぎり(アウト)のこの作品を連載させたあたり、近年のジャンプ編集部の凄みを感じる。

呪術廻戦』や『進撃の巨人』を手がけるMAPPA制作でアニメ化が決まっており、これは間違いなく動画が映えるだろう。動く悪魔たちが観られるのを楽しみにしている。
   

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